15 / 38

第15話 打ち合わせ……?

「今日はお疲れ様でした! 次もよろしくお願いしまーす!」  スタッフさんの声がした。  これにて、本日の撮影は終わりだ……どっと疲れて、俺は僅かによろけた。 「よく頑張ったわね」  すると相坂さんが俺に、タオルを渡してくれた。 「有難うございます」  受け取り、俺は首に冷たいタオルを当てた。現在は秋と冬の中間――都内では秋、新南津市ではもうほとんど冬なのだが、体が熱い為、冷たいタオルが心地良い。 「絆」  そこへ兼貞が歩み寄ってきた。 「少し今後の事で打ち合わせがしたいから、向こうで話せないか?」 「……え、ええ。構いませんけど」  撮影は終わったし、ひと目もあるので、俺は猫をかぶった。すると相坂さんも笑顔になった。 「いってらっしゃい。待ってるわね」 「有難うございます」 「行こう」  兼貞が強引に俺を促した。手を掴まれて俺は驚きつつも、その後に従う。兼貞は控え室になっていたカフェの裏手のビルへと俺を促した。スタッフ達が朝使っていた場所だから、残りは撤収作業まで人は来ない。じっくり話すには良いかと思いながら、俺は兼貞が鍵をかけたのを壁際に立って見ていた。 「絆」  ガン、と、音がした。  気づいた瞬間には、一気に間合いを詰められていて、俺は兼貞に――何故か壁ドンされていた。へ? 兼貞は強く壁を叩いた後、じっと俺を覗き込んできた。 「俺の事、煽り過ぎ」 「……すみません」  演技が悪かったという事か、って、そこまで怒る事か。お前は監督でもプロデューサーでもないし、OKが出てるんだぞ、と、俺は思いつつも、初めての長丁場の演技であるから不安に思って、兼貞の顔を上目遣いで見た。 「だって台本と違ったし、あれでも俺は俺なりに――」 「違う、演技の話じゃない」 「へ?」 「今日ずっとゾクゾクしてた。させられたんだよ、俺は。責任を取ってくれ」 「は?」 「迫力ある絆は、いつも以上に美味そうで困る。もう無理だ」 「ちょ――……ん! ン!!」  兼貞は強引に俺の顎を掴むと、急にキスをしてきた。抵抗しようと開けた俺の口の中へと舌を差し込み、深々と貪ってくる。するとカクンと俺の体から力が抜けた。今までで一番荒々しいキスだった。そして俺の体から力が抜けていった速度も、最速だった。 「ん、ぁ……ハ」 「絆が悪い」 「ふ、巫山戯るな……あ!」  立っていられなくなった俺を壁に縫い付けた兼貞は、俺の着ていたシャツのボタンを外し始めた。背広は既に床に落ちている。 「ん、ぅ、ぁああ!」  俺の右胸の突起に兼貞が吸い付いた。その瞬間――カッと俺の全身が熱を帯びた。 「や、やだ、あ、兼貞……っ、あ」  兼貞が俺のベルトを続いて外した。俺は不安定な体勢のまま、服を乱されていく。兼貞の手が、あらわになった俺の陰茎を握った。既に反応していた俺の体は、ゾクゾクと快楽を訴える。 「ま、待ってくれ、誰か来たら――」 「そんな事、考えられなくしてやるよ」 「ああああ!」  思わず大きな声を出してしまい、俺は必死に力の抜けた体を叱咤して、唇を引き結ぶ。その間も兼貞の手は、俺のものを扱いていた。腰が熱い。いいや、全身が熱い。 「あ、っ……ふ……ンん」  兼貞がもう一方の腕の力を緩めた。結果、支えがなくなり、俺は床に座り込んだ。そんな俺の太ももを押し開くと、兼貞が俺の陰茎を口に含んだ。その温かな口の感触に、俺はブルリと震える。気持ち良い。ゾクゾクする。 「あ……あ、あ、兼貞、や、やめ……ひ、ぁ」  ギュッと目を閉じて俺は何とか耐えようとしたが、どんどん昂められていく。兼貞の口淫は激しさを増していく。唇に力を込めて扱かれる内、俺は――……出してしまった。すると更に一気にガクンと俺の体から力が抜けた。兼貞が俺の放ったものを飲み込んだのが分かる。しかし俺はもう何もする気力が起きず、そのままぐったりと床に横たわった。気持ち良かった……。  必死で呼吸を落ち着けていると、兼貞が俺を見た。 「……」 「……馬鹿……馬鹿! 何するんだよ……今後の打ち合わせって……――!」  口でだけでも抗議しようと、俺は兼貞を見た。そして言葉を飲み込んだ。そこにあった兼貞の瞳は、撮影中にも見た、獰猛な光を宿していたのだ。俺は気圧された。不意打ちだったから尚更である。 「美味しかった」 「……」 「打ち合わせはやっぱり必要だ。俺、撮影中にお前を襲わない自信が消えつつある」 「今既に襲っただろうが……! は、早く戻らないと、相坂さんが変に思うし……っ、服……っていうか臭いでバレるかもしれない……何してくれてるんだよ……本当……」  俺は何とか視線を逸らした。だが兼貞の視線が頭から離れず、心臓がバクバクと煩い。口からも、泣き言しか出てこない。 「消臭スプレーと香水を持ってる」 「なんでそんなに準備が良いんだよ……」 「常に持ってる。んー、あー、全く。絆が悪い」 「どう考えても悪いのはお前だろうが! 体に力が入らなくなったぞ! どうしてくれるんだ! ちょっととりあえず、俺に服を着せてくれ」 「……うん。ごめん」  兼貞はウェットティッシュを取り出して、俺のブツを拭いてから、俺に服を着つけた。何とか服装は元通りに近くなったが、自分でも若干乱れているのが分かる。しかし力が入らないから、自分では直せない。 「どうしよう――ぎっくり腰設定にするか? 俺がぎっくり腰になった事にして、兼貞が背負うとか。どうせ明日から暫くは、また俺の撮影は無いしな」 「いいや。体に力が入るようになれば良いんだろう?」 「ん? 勿論だ」 「俺が気を取りすぎたのが原因だから、絆が俺の気を取れば動けるようになる」 「へ? どうやって? 玲瓏院にはそんな術は無いぞ?」 「キスで良いよ。俺が流し込むから」 「……嫌だ」 「なんで? 動けないと困るんだろう?」  兼貞が虚を突かれたような顔をした。俺は赤面しながら俯いた。 「だって今、お前、俺が出したのを飲んだだろう? その口とキスするのは嫌だ」 「なんでそう可愛い事言うの? 煽ってる? 煽ってるよね?」 「は? 真理だろ。お前、考えてみろよ! 嫌だろ? 逆の立場だったら」 「俺は絆が、俺のを咥えてくれるっていうんなら大歓迎だけど?」 「だ、誰が! ち、違う、そこの立場まで逆にしなくて良い、その後が問題だ。口以外から気を送る事は出来ないのか?」 「――出来なくは無いけど」 「そちらをしてくれ」 「SEXだけど?」 「キスでお願いします」  俺は折れた。立てないのは困るが……貞操の危機だけは避けたい。俺は我慢して目を閉じた。すると兼貞が、俺の唇に触れるだけのキスをした。それで終わりかと思って薄らと口を開いたら――直後兼貞の舌が入ってきた。 「ん、フ」  そのまま、濃厚なキスをされ、唇同士が離れた時には、透明な糸が線を引いていた。が、それよりも俺は頭がぼんやりとしてきて、目眩がした。今度は全身が急に静かになった。熱が引き、まるで水が皮膚の内側を駆け巡っているかのような感覚になったのだ。 「あ……」 「普通、術者が気――力を渡すのは、式神が相手となるから、やりすぎると、絆は俺の式神になってしまうんだ」 「兼貞、ぁ……もっと……」  気づくと俺は、兼貞に抱きついていた。そして舌を出して口を開け、兼貞の唇に迫っていた。――!? 体には力が入るようになったのだが、思考と動きが一致しない。 「兼貞、キスして……」 「チ」  兼貞が舌打ちした。それから再び深々と俺の唇を貪った。この頃になると、思考も、兼貞にキスされたいという欲求一色に変わった。そのまま俺達は長い間キスをしていた。そして――…… 「……ん!?」  気づくと俺は、相坂さんの車の中にいた。 「あら、絆。目が覚めた?」 「え、ええと、俺、あれ?」 「やだ、寝ぼけてるの?」 「いつ車に?」 「? 兼貞君との打ち合わせから戻ってきたのが十分前くらいで、すぐに車に乗ったじゃない? そうしたら貴方、すぐに寝ちゃったのよ。きっと、今日の気合の入った撮影で疲れていたのね」 「……」  俺は青褪めた。途中の記憶が、一部完全に飛んでいる。兼貞にキスを自分から迫ったような記憶がおぼろげにある所以降、俺は覚えていない。服を見てみるがきちんと着ているし、俺の体からは香水の匂いがする。これは兼貞のものと同じだが、匂いが移ったと思われる程度だろう。同じ室内にいたら有り得る程度の香りだ。そこは問題ではない。え。 「もう少し寝ていても良いのよ? きちんと家まで送り届けるからね」  俺は引きつった笑みを浮かべながら、とりあえず手を動かしてみた。体は自由になる。しかし混乱は、帰宅するまで収まらなかった。

ともだちにシェアしよう!