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第27話 式神化
「絆、絆」
「ん……」
名前を呼ばれて、俺はやっと思考が出来るようになっている事に気が付いた。
「俺の声が、聞こえるか?」
「今は」
「さすがだな、やっぱり。さて、丑三つ時が来た。儀式を始める」
始まる前からクライマックスだった気がしたが、俺は何も言う気力が無かった。
「まずは、絆の気を完全に喰らわせてもらう」
「……」
「そのためにキスする。これは、儀式できちんと必要だからだ」
「兼貞」
「ん?」
「早くしろって言ってるだろ……」
「――仰せのままに」
そういうと、兼貞が俺の唇を塞いだ。俺が薄っすらと唇を開けると、荒々しく舌が挿入された。
「っ」
すると全身の熱が再燃した。あんまりにもそのキスが気持ち良すぎて、俺は自分から舌を絡めていた。兼貞が俺の舌を甘く噛んだ時には、もっと欲しくて仕方がなくなる。元からほとんど残っていなかった俺の全身の力が、ごっそりと抜けていく感覚がする。代わりに、キスを続けていると、俺の体は昂ぶり、兼貞にもっとキスして欲しくて仕方がなくなる。慣れないキスを、俺は必至で頑張った。無我夢中で兼貞の口づけに応える。
「ぁア!」
口が離れた直後、乱れ切っていた俺の着物の合わせ目を更に開けた兼貞に、右胸の乳首を吸われた。唇ではさまれ、強く吸われては、チロチロと舌先で嬲られる。もう一方の左手では、やはりぬめる液体を手に取っているらしい兼貞に、乳頭を摘ままれた。
「あああ」
そこからも力が抜けていく感覚がする。そしてどんどん俺の体は、快楽を渇望し始める。既に、直接触られているわけでもないのに、俺の陰茎は反り返り、先端からは透明な液が零れはじめていた。多分気を抜かれている時、俺の性欲は高まるみたいだ。だが、事前の準備とやらで流し込まれていた気のせいで、俺はその欲求に忠実であっていいと漠然と理解していた。
「兼貞、もっと、もっと欲しい」
「俺も絆が欲しい。でもな、それは恋人になってからだ」
「ん、ぁ……ひゃっ」
兼貞が舌で俺の頬をなめてから、露出している肌を舐め、そして俺の反り返った陰茎の先端を咥えた。
「ひゃ、あ、あああ」
出る、と、そう思った。だが、紐のせいなのか、出せない。力が抜け、快楽がさらに高まっただけの結果となる。
「うう、ぁ……あ、ァ」
「うん。これで全部だな」
「は、ッぅ……うン……ぁ」
「――同化しろ」
その時、兼貞が少し掠れた声を放った。瞬間、紐がきつくなり、俺の内部にあった球体が溶けた感覚がした。紐もそのまま消失した。ガクンと俺の解放された体が揺れた時、兼貞が俺を抱き起した。
すると、急に思考が元に戻った。
「? 兼貞、俺は……」
何が起こったのか尋ねようとした瞬間、再び唇を塞がれた。俺は、フェラをした後キスをするなと、また怒鳴りたくなった。が、直後、脳髄が痺れたようになり、そんな事はどうでもよくなってしまった。
「あ、あ……っ……はぁ、ぁァ――あああ」
今度は、何かが急に俺の中に流れ込んできたからだ。兼貞のキスが、一瞬空っぽになった俺の全身に何かを注ぎ始めた。それは快楽という名前に非常によく似ている。兎に角気持ちいい。けれどそれだけではない。
「ああああ、っうあ、あ……あ、あ、あ!!」
口が離れた瞬間、俺は思いっきり嬌声をあげて、ギュッと兼貞の体にしがみついた。兼貞はぬめる左手で、拘束が無くなった俺の陰茎を激しく扱いてから、親指で鈴口を意地悪く嬲る。
「あ、あ、ダメだ出る、う、うぁ……ぁ、ああ!」
その親指の先端から、果てようとした時、何か力のようなものが流れ込んできた気がした。結果、俺は射精できず、尿道側から前立腺を暴かれたかのような錯覚に陥った。
「え、え、何――うあ、あ、気持ち良い。や、や、ダメ。無理だ、おかしくなる。おかしくなっちゃう、や、や、兼貞。ダメだこれは」
「もう少し、俺の気を流させてもらう。我慢してくれ」
「う、うう……あああ、あー!」
「絆。欲しかったんだろう?」
「キスして欲しかっただけで、あ、ヤ」
「本当にそれだけか?」
「あ、分かんない。兼貞が欲しい。あ、あ、あああ」
ボロボロと泣きながら、俺は震えるしかできなかった。兎に角気持ち良いのだが、気持ち良すぎて辛い。ただ分かるのは、全身が満たされていくという事だけだ。快楽の飢餓が消えていく。俺は、確かに与えられた快楽を――流し込まれる気を、全身で取り込んでいるのだろうとは思う。全身から、兼貞の気配がする。
「ああ……ぁ……――!!」
ついに快楽に耐えきれなくなって、俺はそのまま気絶した。
次に目を覚ますと、俺の体は綺麗になっていて、きちんと和服も着ていた。ただ別の着物になってはいたが。最初、自分がどこにいるのか分からなくて、俺はぼんやりとしたままで右手を持ち上げた。すると、何かが揺れる気配がした。なんだ? 首を傾げてみると、頭部と臀部で、やはり何かが揺れる。え? 本当になんだ?
俺は上半身を斜めに起こし、まず臀部に手を持って行った。
「……?」
そして硬直した。そこにはふわふわとした、ふさふさとした、何かが生えていたからである。何事だ? 尾てい骨の少し上のあたりから、非常にふわふわの――大きなしっぽが出ている。は?
「え!?」
慌てて覚醒し、次に俺は頭部に触れた。すると明らかに巨大なモフモフとした何かが、二つ生えていた。何度も瞬きをした後、俺は片隅に置いてあった自分のカバンへと這って向かった。そして中から鏡を取り出した。見てみる。
「な!?」
すると狐耳とでも表現するしかない耳が、二本俺の頭部に生えていたのである。チラリとみれば、臀部のふさふさは、尻尾だ。どういう事だ。なんだこれは?
「絆、起きた?」
その時、襖が開いた。唖然としてから、立ち上がって、俺は兼貞を睨んだ。
「俺のこの耳と尻尾はなんだ!?」
「妖狐鬼珠を媒体にしたから、まぁ狐耳だな」
「意味が分からない」
「絆の感情が著しく高ぶらないか、俺の力が著しく弱まらない限り、この兼貞関連の結界外では、他人には見えないから大丈夫だ。普段は消える。ほら」
兼貞はそういうと、俺の頭をポンと撫でるように叩いた。瞬間、確かに耳と尻尾が消失した。
「ま、絆が俺の式神になったって証拠だよ」
「……納得がいかない。俺は式神になるなんて言ってない。式神になった場合も、ちゃんと俺が俺でいられるのなら儀式をするというつもりだった!」
「結果は同じだったからさ、どうせ。俺は先手を打っただけ」
「し、しかも! 儀式に異論がある! エロかった!」
「それはごめん。だから酷い事をしたと思ってる」
「まったくだ! 責任をとれ!」
「どうしたら良い? どうしたら許してくれる?」
微苦笑しながら、兼貞が俺の横に座った。
「その……」
「その?」
「……おなかが減ったから、とりあえずご飯を食べたい!」
「それは言われなくてもな」
兼貞はクスりと笑ってから、横から俺を抱き寄せた。体勢を崩して、俺は兼貞の腕の中に収まる結果となった。
「ただ、これでもう絆は、俺と何をしても、自分を失わなくなった」
「そ、そうなのか」
「ああ。ただ――おなかが減ったら俺の気を喰らうといいし、俺も存分に食べさせてもらう」
「それもまた、エロいのか?」
「絆は俺にキスしてほしいんだろ?」
「う……ち、違う! 違うからな!? あれは俺の意思じゃない!」
「ふぅん。残念だな」
兼貞が目を伏せ、優しい笑みを口元に浮かべた。それを見たら、胸が疼いた。
儀式のせいにしてしまったが、俺は兼貞の事が多分好きなので、本当は自分の意思でキスをしたいんだと思う。多分それは、食事とか、快楽という事ではないはずだ。
しかし……俺は今も兼貞に対して、好きだとは言っていない。
だが昨日の今日のこの状況で言う気も起きない。
「俺はいつだって自分意思で、絆にキスしたいけどな」
不意に兼貞が、チュっと音を立てて、俺の頬にキスをした。俺は目を丸くする。
その時、襖の向こうから声がかかった。
「お食事をお持ちいたしました」
「ああ。入っていいよ」
俺を抱き寄せたままだというのに、あっさりと兼貞が言う。俺が呆然としている内に、仮面の使用人達がお膳を運んできて、そしてすぐに下がっていった。
「おま……見られ……」
「俺は何も困らないし、うちの使用人はみんな口が堅いよ」
「……」
羞恥で真っ赤になりつつも、その後俺は、食事をとる事にした。
相変わらず、美味だった。
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