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第15話 熱愛発覚!?

 遠園寺とは、ラインを交換して、その日は別れた。夕食を取り、眠ってから、俺はぼんやりとお風呂に入りつつ、なんだか押し流されてしまった気分で嘆息していた。 「好きって……本気なんだろうが、ほとんど話もした事が無いというのに、一体奴は俺のどこが好きなんだ……?」  そんな疑問が浮かんでくる。  入浴を終えて、その日はぐっすりと寝た。すると翌朝、『おやすみ』と『おはよう』の文字を同時に見つけた。寝ていてラインを見ていなかったのであるが、遠園寺が送ってきていたのだ。非常にマメらしい。俺についていけるのだろうか。俺は風紀の連絡以外ではあんまりスマホをコミュニケーションには使用していない。だが、一応お試しとは言え恋人になったのだからと、適当にスタンプを返しておいた。するとすぐに反応があった。 『今日は俺様の部屋に来ないか?』 『行かない』  簡潔に返して、俺は朝食を食べた。我ながら美味しい肉じゃがである。昨夜のあまりだ。集中して食事をした後、再びスマホを見ると、『来い。来ないなら俺が行く』と返ってきていた。 『そんなに勉強がしたいのか?』 『郁斗と一緒にいたいんだよ。言わせるな!』  そんなやりとりをし……俺は思わず赤面した。なんだこれ、小っ恥ずかしい。目をギュッと閉じて、俺は悶えた。恋人がいるって、こういう感じなのか。なにこれ。  結局その日は、俺はゆっくり休みたいからと断ったものの、ずっと遠園寺とラインをしていた。そうして、月曜日の朝も、遠園寺からの『おはよう』に返事をしてから登校した。今週からは、玄関でのチェックは無いのだが、俺の中で青崎の下駄箱の保護はmy任務になっていたので、つい早く足が向いた。最近では、俺が掃除をしていると広まったようで被害自体も減ってきてはいる。 「ねぇねぇ、槇原」  すると、ひょいと常磐が顔を出した。久しぶりに見る顔に、驚いて振り返る。 「早いな、常磐。おはよう」 「おはよ。あのさ、バ会長とのお家デートはどうだったの?」 「お前は情報屋なんだろう? 自分で調べたらどうだ?」 「うん。だから現在進行形で調査中というか……遠園寺会長が、昨日から死ぬほど機嫌が良いらしいから、何か進展があったのかなと思って、直撃に来たんだよね」  それを聞いて、俺は咽せそうになった。誰かに聞かれた場合、お試しで付き合っているのだと述べて良いのだろうか。俺は遠園寺と打ち合わせ不足だったようだ。 「……俺からは特に何も言う事はない。その内分かるだろう」 「ほう。否定も特に無いという事は、進展はあったと見た」 「別になんだって良いだろう? それよりも、お前は親衛隊情報網に、転入生は海外からの帰国子女で、別段授業をサボっていたわけではないと流しておいてくれ」 「はーい」  そんなやりとりをしていると、風紀委員の生徒が来たので、俺はバトンタッチし、校舎に入った。その場で常磐とも別れて少し歩いていると――ん? 空き教室の方から音が聞こえてきた。俺は足をそちらに向けながら、こんな時間に誰だろうかと考える。場所的に強姦事件の検討をした。 「ん?」  中をチラリと見ると、そこには生徒会長親衛隊の隊長である、七海花音(ななみかのん)が立っていた。俺はその姿を見て、『人気者の生徒に近寄った(抜け駆けした)場合、制裁する』という親衛隊の規則を思い出した。これって、もしや、俺自身が制裁される対象になったのではないのか? 「あ、風紀委員長様、おはようございますぅ」 「おはよう。ここで何を?」 「今日から、会長親衛隊の別働隊として、『会長様と風紀委員長様を見守り隊』を結成するために、場所の用意をしているんです。おめでとうございますぅ」  その言葉に俺は思わず吹きそうになった。 「見守るとはどういう事だ?」 「そのままですぅ。応援してますねっ!」  俺はなんと言葉を返して良いのか分からなかったので、曖昧に頷いてから、風紀委員会室へと向かった。そして――大量にある、新入生歓迎会の時の事件報告書を見た。今日からまた腱鞘炎との戦いが幕を開けるのだった。週末の出来事のインパクトが強すぎて忘れかけていた。  さて、このようにして、俺の日常には、遠園寺とのラインというコミュニケーションが加わったものの、他の変化は特にない。毎日書類仕事をしたり、適宜見回りをしている。と――当初は思っていた。  しかし翌週の頭に発行された学園新聞を見て、俺は固まった。 『生徒会長と風紀委員長熱愛発覚!』  と、出ていたのである。その記事には、生徒会役員や風紀委員達からの、祝福コメントまで掲載されていた。頭をなにかで殴られたような衝撃だった。学園新聞は昔からゴシップ記事が多かったが、まさか自分が取り上げられる日が来るとは思っていなかったし、祝福している奴らは知っていたのかと言って回りたくなった。ソースは一体どこなのかと考えると、遠園寺本人しか思い当たらない。 『お前、なんて周囲に話したんだ?』  俺が自発的にラインを送ると、遠園寺からはすぐに返信があった。 『そのままだ。付き合っていると話しただけだ』  嘘ではない。嘘ではないのだ。お試しという言葉が抜けているだけで、いいやお試しだとしても、付き合っているという部分は嘘ではないのだから、遠園寺に罪はないだろう。問題は、付き合う事にした俺自身にあるだろう。 「ま、まぁ、人の噂はすぐに消えるというしな。忘れるだろう、みんなすぐに」  俺はそう呟き、本日は見回り担当だったので、校舎を回る事に決めた。報道直後であるから針のむしろのようにも思ったが、『おめでとうございます』を繰り返し聞いただけで、それにも慣れてしまえば特に問題は無かった。また、ここの所、生徒会長親衛隊が転入生に制裁をしなくなっていたので、少しだけ書類仕事も落ち着いているし、今週からは心機一転頑張れるかもしれないと思っていた。 「あ!」  俺が青崎と遭遇したのはその時の事だった。強風で、青崎のマリモによく似たカツラが吹っ飛んでいった。慌てて手を伸ばした青崎が転びそうになり、結果、重そうな眼鏡が廊下に落下して砕け散った。  すると初日に見た通りの、金髪碧眼の青崎の素顔が現れた。 「大丈夫か?」  俺がアフロを拾って手渡した時、周囲は青崎の顔面を食い入るように見ていた。確かにインパクトはあるだろう。だが俺としては美形な素顔より、どう考えてもマリモな姿の方がインパクト大だと思うのだが。  この結果――素顔バレした青崎への制裁は、常磐が流してくれた帰国子女情報と共に親衛隊達の心に響いたのか、減っていった。顔が良いって得だな。顔といえば、俺が遠園寺の横に並んでいて平気なのだろうかともたまに考えるようになった。恋人ごっこというのは偉大である。青崎に関しては、制裁は減ったのだが、逆に強姦被害が増えかけそうになったが、すぐに減った。青崎が全て自衛したからである。親衛隊は崇拝対象を強姦等からも守るという役目も持っているので、青崎にも親衛隊が出来る日が近いかも知れない。  こうして――中間テストの日が訪れた。  俺は久方ぶりに教室で、遠園寺を見た。俺も遠園寺も、自己紹介以来だろう、教室へとやって来たのは。そう思いながら席に着くと、遠園寺がニヤリと笑った。 「今度こそ完璧だ。お前に勝つというより、お前と同じく満点をとって、同点一位を目指す!」 「良い心がけだな」 「上目線だなぁ、郁斗」  するとその時、教室に「「「「「「きゃー!」」」」」という歓声が漏れた。 「名前で呼んでる!」 「素敵!」 「本当に恋が実ったのか!」 「良かったな会長!」  ……クラスメイト達が、俺と遠園寺を祝福している。まだお試しなのだと俺は言って回りたかったが、なんだか無駄に照れてしまい、俯いた。考えてみると、俺には恋愛免疫は無いのだ。こうして始まった中間テスト、結果は、俺と遠園寺が共に一位だった。遠園寺は有言実行したのである。

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