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第16話 旅行の計画
さて、高等部二年の今年は、修学旅行がある。中間テストが終わってすぐ、その打ち合わせがあるとの事で、本日ばかりは生徒会役員も風紀委員のメンバーも全員参加で、ホームルームが行われる事となった。
「適当に班を決めろ」
ホスト風の教師である東城先生がそう言うと、遠園寺が俺を見た。
「一緒に回るぞ」
「ん? ああ、そうだな」
別に誰と班でも構わないので適当に俺は頷いた。すると教室の視線が集まった。なんでだよ……。まぁ、これまで険悪な仲だと捉えられていたのだろう俺達が班を組んだら、驚く人々は多いのかもしれないが……居心地が悪い。
「四人ひと組ですし、僕も入れて下さい」
「俺もー」
菱上と夏川が言った。こうして俺の班は、会長・副会長・会計・俺という構成になった。最初に結成されたため、『第一班』である。行き先は、イギリスだ。班ごとに行き先を決める事になったので、俺達四人は机を並べ替えて、見学する候補地の選定に励んだ。幼少時に、菱上と遠園寺は行った事があるらしい。初めて行くのは、俺と夏川だ。なので、俺と夏川の希望地を巡って良いと言われたのだが、思いつかない。なのでタブレットで俺はぼんやりと検索していた。夏川は名前を知る観光名所をバシバシ挙げていった。大体は夏川案で良いだろうという事になった。
この日はまる一日計画を立てるために授業予定だったのだが、俺の班はこのようにして順調にすぐに決まってしまったので、暇になった。退席して風紀の仕事をしに行きたいようにも思ったが、今日は教室にいる決まりである。そんな事を考えていたら、遠園寺が俺に言った。
「夏休み、俺の家の別荘に来ないか?」
「別荘?」
俺が視線を向けると、遠園寺が大きく頷いた。
「どこにあるんだ?」
「色々な所にある。国内外――北半球でも南半球でも好きな場所に連れて行くし、無ければ建てさせる」
「……建てる必要は無い。ただな、たまにしか家族とも会えないからな……俺はとりあえず実家に帰るぞ」
「槇原の実家か。行ってみたい。槇原コーポレーションの槇原社長は、とても良い方だと俺の父が話していたぞ」
遠園寺がそう言うと、夏川が驚いた顔をした。
「槇原って、まさかとは思ってたけど、やっぱり槇原社長の御子息なの?」
普段の間延びした口調では無かった。すると隣で菱上が嘆息した。
「菱上グループの調査によると、槇原社長はご再婚なさったそうですね」
まさか調査されているとは……。上流階級怖い。
俺が曖昧に頷くと、遠園寺が言った。
「息子さんを下さいと挨拶に行かなければならないな」
「「「「「きゃー!」」」」」
クラスに歓声が溢れた。何故遠園寺が発言すると歓声がいちいち上がるのか。というより挨拶の内容がおかしいだろう。誰かそこにツッコミを入れるべきではないのか?
「じゃあ夏休みは、槇原の家に遊びに行こうか」
「俺も行きたいー」
「俺の空いている日程は――」
「ちょっと待てお前ら。俺も家に確認をしてみないと分からない」
慌てて俺がそう言うと、遠園寺が腕を組んだ。
「じゃあやはり、確認不要な俺の別荘に今年は来ないか? とりあえず、夏向と葵は来なくて良いぞ? 二人が良い」
「采火の別荘には興味がありません」
「俺も無いよぉ」
「え」
まぁ……義理の父である槇原さんに確認をするのと、二人きりというのだし気軽そうな遠園寺の別荘だと、遠園寺の家の方が良いだろうか?
「……分かった」
「「「「「きゃー!」」」」」
すると俺の返事にまで、歓声が上がった。ちょっとこのクラス、よく分からない。
こうして、俺の場合は、修学旅行以外の旅行案まで決定した。
その後は、期末テストまで、あっという間に過ぎ去った。目立つ変化はといえば、やはり青崎の親衛隊が結成された事だろうか。結果として、風紀委員会の仕事は落ち着きを見せ始めた。これは、青崎自身も器物損壊をしなくなってきた事も大きな理由だ。奴は物を壊してはならないと覚えたようである。
期末テストが近づいてきたある週の日曜日、俺は遠園寺の部屋にいた。最近では、毎週末、こうして一緒に勉強をしている。遠園寺は非常に真面目だ。俺は自分の勉強というよりも、最近は遠園寺に練習問題を作って渡した後は、主に遠園寺の部屋で料理を作っている。遠園寺は自炊をしないそうなのだが、俺の料理を奴は欲するのだ。
お互い別の事――料理と勉強をしているため、特に会話が無い事も多い。だが、遠園寺といると、無駄に落ち着く事を俺は学んだ。沈黙も別段気まずくない。遠園寺は根が真面目なので、一緒にいると心地が良いのだと俺は思っている。豚の角煮を完成させて、エプロンを解いた俺は、リビングへと戻った。このエプロンは、遠園寺がある日「やる」と言って俺にくれた品である(遠園寺の部屋に置きっ放しにしている)。
「順調か?」
「問五が分からねぇ」
「どこだ?」
珈琲を置いてから、俺は遠園寺に近づいた。そして横から覗き込む。ああ、確かにちょっとこれは分かりにくい。そう思い、俺は解説した。
「――という事だ。分かったか?」
「……」
「遠園寺?」
「……」
「どうかしたのか?」
顔を上げると、俺をまじまじと見ている遠園寺の顔が横にあった。真っ直ぐに目が合い、俺は首を傾げる。すると小声で遠園寺が言った。
「いい匂いがする」
「豚の角煮か?」
「違う。お前が! 郁斗が! 雰囲気をぶち壊さないでくれ、頼むから!」
「雰囲気?」
「……郁斗。お前は、俺以上に実は子供だったようだな」
「どういう意味だ?」
「俺とお前の関係は?」
「生徒会と風紀だな」
「そうじゃなくて!」
「?」
「言い換える。俺はお前のなんだ?」
「え?」
俺は逡巡した。そして思い出した。
「恋人だ」
「そうだ。その通りだ。この俺様がお前に見蕩れていたというのに、お前はそれに全く気がつかなかったな……少しは俺様を意識してくれないか? 俺様も男なんだぞ?」
「お互い男だというのはよく理解しているつもりだが?」
「そうじゃねぇよ!」
「よし、昼食にしよう!」
「話を変えるな!」
このようにして、毎日が流れていく。遠園寺がいる空間というのは、思ったよりも楽しい。入学後、常磐や夏川といった友達にも恵まれてはいたが、風紀委員になってからは、ここまで同級生と絡む機会は無かった事もあり、俺は遠園寺といると楽しい。
その後訪れた期末テストの季節――今回も、俺と遠園寺が同点(満点)で一位だった。俺はいつもの通り頑張っているが、俺は最近遠園寺の頑張りも間近で見ているので、とても嬉しい。テスト前最後の週に作ったカツ丼の効果かもしれない。テスト後のお祝いには、遠園寺が神戸牛をお取り寄せしてくれたので、俺は大変満足したものである。
そうして――夏休みが訪れた。
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