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第5話
「――そうか」
陸軍の仕事から戻ってきた時生に、この日も俺は連理との話を聞かせていた。ネクタイを緩めながら、時生は俺を見て頷き、あぐらをかく。毎日俺は、日中は村医者として皆の診察をし、午後からは時間を作って連理の元へと通っている。
「どう見ても人間だ、時生」
「神を自称する子供、という事か? 俺は、そうは考えないけどな」
「何故?」
「あの蛇神様は、俺達が一年に一つ歳を取るのとは逆で、毎年若返るからだ」
「そんな戯れ言を……」
碕寺の客間で、俺は徳利を傾け、時生の猪口を満たしていく。俺が村に戻ってから、三年が経過していた。もうじき俺の妹には、三人目の子供が生まれる。俺は返答しつつ、正直内心でドキリとしていた。この三年……最初の時点で考えたならば、連理は実年齢で十三歳程度に成長するはずだった。だが明らかに、連理の体は細くなり、背丈は縮み、現在では七歳前後に見えるようになった。
「……」
「廣埜?」
「……栄養状態が悪いとは思えないんだ。ただ、連理は育たなくてな……」
「だから何度も言っただろう? 蛇神様は、若返るんだよ。老人まで育ったら、次に赤子まで還る。そして再び乳児から老人まで、今度は人間と同じように育ち、そうして、永劫繰り返していると聞く」
「そんな馬鹿な話が……」
信じられないし、信じる気も無い。だが、連理本人の主張と、時生の話は同じなのだ。そして実際、この三年間、俺が目撃した状況とも一致するのは間違いない。
「……そう考えるよりは、若返る新種の病気だと想定する方が易い」
「新種と言うのならば、解明までは長い時間がかかるという事だろう? その間廣埜は、じっくりこの村で研究したら良い。あと五年もすれば、いずれにせよ若返るというのは分かるだろう」
喉で笑うと、時生が徳利を傾けた。再会して三年が経過し、より時生は精悍な人物になった。
――まだ嫁を貰わないのか。
これは最近、俺と時生が共通して、周囲からかけられる言葉の一つだ。
「廣埜。少し休もう。もう仕事は終わりだ。今は、二人で食事中だろう?」
「ああ……そうだな」
頷き、俺も己の猪口を傾ける。すると一度立ち上がり、時生が俺の隣に座り直した。そして卓に猪口を置くと、俺の肩を抱き寄せる。
「なんだよ」
「最近、『連理』の話ばかりだな。俺と居る時くらい、俺を見ろ」
「……」
不思議と手を振り解こうという気にはならなかった。チラリと時生を見ると、そのまま顔を覗き込まれ、俺は頬が熱くなってきた。そのまま時生の唇が近づいてくる。俺は目を伏せ、顔を傾けた。唇が触れあったのは、それから少ししての事である。
「ずっと変わらず、俺は廣埜が好きだ」
「時生……」
「何度生まれ変わっても、変わらない自信がある」
「ひ、非科学的だな……」
「どうだろうな?」
「ぁ、っ……」
そうして再度、唇を唇で塞がれた。ドサリと音がしたと思った時には、俺はその場で畳の上に押し倒されていた。骨張った時生の手が、俺の髪を梳く。
「ん、ッ」
その時、首元を強く吸われて、俺の背がピクンと跳ねた。ツキンと疼いたから、シャツの間際に鬱血痕をつけられた事が分かる。カッと俺の頬が熱を帯びた。
「ダメだ、時生」
「どうして?」
「俺達は男同士で、それで……これ以上は……」
弱々しく抵抗しながら俺は、自分でも説得力が無いだろうと理解していた。黒い瞳に獰猛な色を宿している時生は、唇を舐めると、どこか残忍な顔をした。
「ぁ……」
「嫌か?」
シャツのボタンを外されながら問われ、俺は目を閉じる。
――この夜、俺は時生と体を重ねた。
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