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第6話

「首、どうしたの?」 「!」  翌日、座敷牢へと行くと、連理が俺の首筋に指先で触れた。ビクリとしてしまった俺は、慌てて距離を取り、昨夜つけられた鬱血痕を手で覆う。 「ああ、そうか。寺の血筋は、輪廻の記憶を失わないからね。寺以外にも、時々そういう者は現れるけど」 「?」 「相変わらず愛されているんだね。僕も今では、負けていない自信があるけど」  立っていた俺の胴に、連理が両腕で抱きついてきた。受け止めた俺は、片手でその背中を撫でる。 「僕も絢戸が喰べたいな」 「食べる?」 「うん。喰べる」 「食べるって……」  まるで時生との事が知られているように思えて、俺は気恥ずかしくなった。確かに昨日の俺は、時生に食べられたと表しても良いだろう。体を重ねてしまった羞恥と悦びに、俺は上手く対処出来ないでいる。 「絢戸はいつ生まれてきても、美味しそうだよね」 「どういう意味だ?」 「それにいつも僕に優しい。ねぇ、絢戸」  俺の体をギュッと抱きしめて、連理が満面の笑みを浮かべた。 「絢戸を頂戴。もう――我慢出来ないんだよね」  連理はそう言うと、不意に俺に対して足払いを仕掛けた。突然の出来事に、俺はその場に倒れ込む。すると動揺している俺に馬乗りになり、大きく連理が口を開けた。現実感が薄れていく中で、俺はその赤い口を見ていた。白い犬歯が妙に尖って見えた気がした。  ズキリ、と。  鈍い痛みが走った直後、俺の視界に紅が散った。左の首元、昨夜時生に痕をつけられた皮膚の上を、酷い熱が駆け抜けていく。 「あ」  紅は、俺の首から吹き出していた。視界を赤と緑と灰色の砂嵐が襲う。 「やっぱり美味しいなぁ。また生まれてくるのを、待ってるよ」 ◆◇◆

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