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第23話 いつだって脇役

「じゃあ、最後はいつも通りに二週間後のステージの案内して終わりだね。」 「う、うん。よろしくお願いします。」 今日は第二音楽室でのスケート部の打ち合わせだ。 教室の隅の机と椅子を向かい合わせに繋げて、(しき)飛鳥(あすか)と三人で明後日に控えたアイスショーの段取りを確認する。実際に演技をするのは飛鳥一人なわけだけど、色は音響を、僕は全体の進行と飛鳥の演技の合間のMCを担当しているので、三人でタイミングなどの細かな打ち合わせをするのが毎月の常になっている。 全体の流れを三人で確認すれば、飛鳥はいつものようにご丁寧に深々と僕達に頭を下げた。 飛鳥に練習場所とアイスショーの場を提供してくれている畔倉(あぜくら)アイスアリーナも春休みは書き入れ時だ。オープン前の早朝と客数の減ってくる夕方以外は飛鳥はリンクでの練習を遠慮している為、貴重な朝練が終わるのを待ってから今日はこうして集まったわけだ。もちろん、軟禁状態になければならない僕は木崎(きざき)先生にきちんと許可をとった上で参加している。 先生も本来は顧問として打ち合わせに参加すべきなんだろうけど、今日は朝から職員会議らしく、朝一で提出期限の書類の発掘作業から取り掛かるという何とも忙しそうなご様子だった為、全員一致で無視することに決め現在に至る。 まぁ、顔を合わせづらかったから助かったというのはここだけの話だけど。 そもそも打ち合わせと言っても、飛鳥の次のステージの曲と演技時間を確認して、演技の合間の繋ぎのMCの内容を決めてしまえば打ち合わせはあっという間に終了だ。 だけど、色も飛鳥もどうやら解散してこの場所を離れる気はないらしい。 深いため息と共に背もたれに身体を預けた色の視線は、真っ直ぐ僕へと向けられる。 「……で、お前の方は結局どうなったんだよ。」 「ん?」 「昨日の話。……木崎(あきら)になるわけ?」 笑い半分で聞いてきた色に、僕もまさかと笑って返す。 「普通に三者面談やるよ。それが一番現実的っしょ。」 「……そうか。」 ある程度僕の返答を予想していたんだろう。色と飛鳥は互いに顔を見合せ、こくりと頷いた。二人の視線が僕へと注がれる。 「当日、俺も飛鳥も外で待機しとくからな。何かあったらすぐ助け呼べよ。」 「絶対、絶対、呼んでね?」 二人の真剣な眼差しに、僕は一瞬言葉に詰まる。でも、それを悟らせないようにとっさに口角を上げた。 「……大丈夫だよ。二人とも心配性なんだからぁ。」 わかったよ、とは言えなかった。 「さて。じゃあ僕はMCの原稿作らなきゃ。」 最もらしい理由をつけて席を立てば、飛鳥も練習に戻るねと同じく立ち上がる。 色はこのままここに残っていつものようにピアノを弾くつもりなんだろう。動く気配のない色に、何かあったら連絡ちょうだいねと言い残して脇をすり抜けようとしたんだけど、すれ違いざまいきなり手首を掴まれた。 それに気づくことなく第二音楽室を出ていった飛鳥を二人で無言のままに見送ってから僕は握りしめられた手首から色へと視線を移した。 「……何?」 「聞きたいのはこっちの方だ。……お前、まだ何か隠してんな?」 無言で手を払おうとしたんだけど、ビクともしない。 こちらを射抜くような視線に、思わず視線が泳いだ。 「……気のせい、だよ。」 笑いたいのに上手くいかない。 僕の下手な嘘に、色の口からは深いため息が漏れた。 「大事なんだよ。……俺だってお前のそばにいて、守ってやりたいって思ってんだよ。」 掴まれた手を痛いくらいに握りしめられて、思わず顔が歪む。 ズキリと僕の心臓が軋む音がした。 「……その言葉、一年前に聞きたかったな。」 思わず漏れた本音は、色には意味のわからないものだっただろう。 眉をひそめた色の手を振り払い、僕は思いっきり場違いな笑顔を作ってやった。 「ねぇ、飛鳥の事好き?」 「な、な、んだよ急に。」 突然の言葉に羞恥に固まり、色の頬にほんのりと赤みがさす。答えとしてはそれで十分だった。 「僕なんかより大事なものがあるんだから、優先順位を間違えちゃだめだよ。あんまり僕に構ってると、飛鳥がヤキモチ妬いちゃうかもよ?」 「はあ?」 意味わかんねぇと首を傾げる色に、僕はやっぱり笑ってしまった。 「とにかく僕の事はいいの。もうね、いいんだよ。」 それ以上は何も言わず、僕は納得いかないと睨みつけてくる色に背を向けてヒラヒラと手を振ってから第二音楽室を後にした。

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