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第47話
※自殺という重い話を扱っています。読まなくても次の話には繋がりますので、この回は飛ばしていただいて結構です。(今回は2ページ同時投稿してるので、既に次ページがあります)
柊木 さんは六年前、木崎 先生が初めて受け持ったクラスの生徒だったらしい。
名家のいわゆるお坊ちゃまだったらしいけど、それを鼻にかけるようなことは一切なく、成績優秀、人当たりもよく、気配りもできる、絵に書いたような優等生だった。
クラス委員を引き受けてくれて、新米で今以上にダメダメだった先生を助けてくれて。そうしていつしか数学準備室によく来るようになって、先生とよくコーヒーを飲んでいた。そんな人。
ほんの少しだけ周りの生徒より近くにいる時間が多くて、だからこそ先生は気づいてしまった。彼が、何かを抱えてるって事に。
毎日のようにコーヒーを入れてやりながら、先生は柊木さんが話してくれる時をずっと待っていたんだ。
そうしてその日はやってきた。
『たとえば、ですけど。……木崎先生の事好きだって言ったらどう思いますか?』
『は?』
『気持ち悪いと、思いますか?』
「……自分は同性愛者なんだと、ある日言われたよ。厳格なご両親は絶対理解してくれないだろうし、そもそも片思いしてる幼なじみにもこんな事言えないってな。」
「……辛い、ね。」
「それでも話聞いてもらって少しは楽になったって……あいつ、そう言ってたんだけどな。」
先生に話を聞いてもらって、ほんの少しだけ勇気を貰えたんだろう柊木さんは、ある日片思いの幼なじみに告白をした。
結果は玉砕だったけど、それでも幼なじみは気持ちは嬉しいと、ありがとうと、そう言ってくれたらしい。
それで全ては終わるはずだったんだ。
……その告白を、クラスの人間に聞かれていなければ。
「失恋しちゃいましたってその日に準備室来て、それでも笑いながらコーヒー飲んでたんだけどな。……次の日から、校内に噂が流れ始めた。」
全ての人間に好かれる人なんていない。人当たりよく、成績優秀、人望があろうとも……いや、そういう人だったからこそ、逆に妬み嫉みを持つ人間がいたんだろう。悪意を持って広められた噂は、次第に柊木さんを追い詰めていった。
「たぶん、俺の知らない事も色々言われて、されてたのかもしれない。幼なじみにも迷惑かけたくないからってあえて距離取って……あいつはどんどん孤立していった。」
目に見えて弱っていく柊木さん。寮生ではなく自宅から通っていた彼が先生も守ろうとあえて数学準備室からも遠ざかってしまえば、どうする事も……なんて見捨てるような事、先生はしなかった。
無理やり柊木さんを捕まえて、放課後に準備室に連れ込んで。彼が溜め込んでいたものを全て吐き出させた。
『辛いんですっ、僕のせいであいつにも、先生にも迷惑かけたくない!そんな事になるなら……僕が生きてる意味なんてっ、…っ、もう、このまま…』
『ふざけんな!』
パシンッ
気がつけば、頬を平手で打っていた。
『いいわけないだろ!俺は教師で、お前は生徒なんだよ。だから迷惑でもなんでもかけろ!頼れ!一人で抱えんな!』
もう死にたいと、そう口にした柊木さんを引き戻そうと先生は彼の頬を張り、守ってやりたいんだと、助けたいんだと必死に訴えて。
――そうして柊木さんはその一週間後、自室の窓から飛び降りて亡くなった。
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今回は話の都合上、二ページ同時投稿です。
次ページには救いがある(はず)なので、読んでやってください。
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