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第3話

「あ!初音じゃん。どこ行ってたの?」  同じ年でオメガ性を持つ木崎 雪(きざき ゆき)に話しかけられ、初音はパンとスープとサラダが乗った盆を持って食事をする為に食堂のテーブル席へ着いた。 「教会でお祈りしてた」 「また?初音って、暇さえあればずっと祈ってるね」 既に食事を終えた雪が初音の隣に座って食後のお茶を飲む。 「そんなに熱心に何、祈ってんの?」 髪と同じ色をした茶色の瞳を細め、明るく笑う雪は性格も見た目も人懐っこくて可愛かった。 十六歳で発情期を迎えた雪はまだ仕事をしてはいない。 それは、親のいない自分とは違って、守ってくれる両親が愛情を持って育てているからだった。 オメガということで悩みはあれど、親という後ろ盾があるとないとで、同じオメガでもこうも違うのかと初音は感嘆した。 国自体も保護する人間がいると無理強いが出来ないのか、雪のようなオメガを特別待遇して大切に扱っている。 本来なら初音も自分の意思を伝えて重宝されてもおかしくない立場なのだが、後ろ盾や保護者がいない為、国とアルファの道具となり下がっていた。 嘆いても現実は変わらないし、悲観しても物事はなにも解決しない。 今年で二十一歳になる初音は世間では成人したいい大人だ。 自分のことは自分で解決せねばならない。この教会で孤児として育てられた初音はせめて自分に優しく接してくれるシスターに恩返しがしたかった。 ボロボロでいつも金銭的に厳しい教会は自分がオメガとしての仕事をこなすことで収入を得ている。一件、本当なら莫大な報酬が与えられるはずだが、孤児で身寄りがなく、立場的に弱い初音は破格の金額で仕事を請け負っていた。 一昨年は三人目を出産し、去年は身体の回復の為に休業。 今年は予約待ちのアルファの仕事が入っている。 その次もまたその次も予約は埋まっていた。 この命が尽きるまで自分は子を孕んで産むという生産を繰り返させられるのだろう。 そんな重く暗すぎる未来に嫌気が差すが、自分の運命はもう変えることは不可能だと諦めていた。 「初音?」 ぼんやりと考えていたら雪に名前を呼ばれ、初音は我に返ると、にっこり微笑んだ。 「次の仕事が入ったんだ。また一年ぐらいここを離れる」 先程、シスターに告げられたことをいうと、雪は顔を曇らせた。 「また?三人も産んだのにまだ産まされるわけ?」 「……それが俺の利用価値だから仕方ないよ」 パサパサのパンを食べながら淡々と告げる初音に雪は小さく溜息を吐いた。 「初音は好きな人とか作らないの?こんな仕事辞めて、結婚しちゃいなよ」 擦れてもいなければ穢れてもいない綺麗な雪。 愛情を受けて育ち、相応しい保護をされているオメガならではの問いに初音は自傷気味に笑った。 ちゃんとした保護を受けているオメガは由緒あるアルファに見初められて結婚し、子孫繁栄にその家計を守る者として大切に娶られる。 雪もその対象者だ。だけど、自分は違う。 捨てられたオメガほど雑でゴミのように道具として使われる。 そして、最後は破棄されるのだ。真実を教えてやっても良かったが、こんな汚れた裏社会をわざわざ教えて失望させるのも可哀想で初音は作り笑いを浮かべた。 「いいんだ。好きでやってることだから」 あまりに綺麗過ぎる雪が眩し過ぎて気持ちが伏せた初音は食欲が失せたと、席を立った。 「これ、昼ご飯に食べるよ」 朝食がまだ残っている盆を持って部屋へ戻る初音を雪は物言いたそうな顔で見送った。

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