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第4話
「……こんにちは」
オメガを取り扱う国の機密機関にやって来た初音は小さな声で挨拶をして扉を開いた。
数名の役人が下卑た笑みを浮かべてこちらを見る。
「やっと来たか。今回もちゃんとアルファを産めよ」
見下したように命令してくる一人の男を横目に扉付近で立っていたら、別の役人が今度の依頼者の情報を告げた。
「今回は湯藤家へ行ってもらう。日本でもトップクラスの家系だ。跡取りの湯藤 満様の子供を産め。無事にアルファが生まれたら、今、婚約を結んでいるアルファのご令嬢とご結婚されるそうだ」
「……分かりました」
小さな声で任務の了解を伝えたとき、部屋にいる数名の男の内の一人が楽しそうに笑った。
「満様は変に頑固な方らしい。返品されないように気をつけろよ」
『返品』という言葉に初音は眉間に皺を寄せた。基本的に契約を結んだアルファはオメガの発情期に性行為をする。
ただ稀にオメガ嫌いな者や鬼畜で嫌がらせを兼ねたアルファが難癖を付け、契約を不履行にすることがあった。
これを『返品』というのだが、それをされたオメガはこの機密機関で国に不利益をもたらしたとし、酷い拷問を受け、教育される決まりだった。
一度、アルファを拒んだオメガが返品され、酷い仕打ちを受けていたのを偶然見た初音はあまりの烈々たる暴虐に驚いたことがあった。
「……肝に銘じます」
不遜な態度で答えると質の良いスーツを着た男が初音に近付いて髪を鷲掴みにし、無理矢理顔を上げさせた。
「っ……」
痛みに顔を歪め、この機密機関の責任者をしている林 順平(はやし じゅんぺい)を初音は嫌そうに見上げた。林は軽蔑するような目を向け、吐き捨てるように言う。
「お前みたいな腐ったオメガでも国に貢献出来ることに感謝しろ。行くぞ」
手を離して付いて来いと命令され、初音は拳を握り締め、奥歯を噛みしめながら男の後ろへ続いた。
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