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第6話

 最悪だな…… 厄介な仕事になりそうだと内心、気を揉んだが初音はそれを表情には出さず、にこりと微笑んで満へ挨拶をした。 「一生懸命、務めます。どうぞ、一年間宜しくお願いします」 「……」 満はふいっと初音から顔を反らした。それを見た林は初音を鼻で笑い、拓真は困ったように眉を寄せた。 「すまないね、初音君。満には私の方からキツく言い聞かせておくから」 「いえ……。人はそれぞれ多様な思考があります。オメガに嫌悪を抱かれていても仕方ないでしょう」 「別にオメガが嫌悪の対象じゃない。金のために体を売るような奴が嫌悪の対象なだけだ」 冷たい声で満が初音を罵った。開口一番がこれかと、気持ちを落としながら初音は笑顔を保つ。 「それは申し訳ございません」 ムキになっていいことなどない。自分が折れていればいいと、初音は頭を下げた。しかし、その態度も気に食わなかったようで満は立ち上がると、部屋から出て行ってしまった。 「満様…、俺が気に入らない様子ですが契約はやめますか?」 あそこまで毛嫌いされているのだ、本当に契約を結んで良いのか不安になり、初音が聞くと、林に窘められた。 「お前がそんな提案できる立場か?お前の魅力がないから満様が機嫌を悪くしたんだろう。努力をしろ」 「いやいや、満が頑固なんです。申し訳ない。やっと漕ぎつけたオメガだ。絶対に契約させてくれ。どうかアルファを産んで欲しい」 拓真が身を乗り出して懇願し、初音は林を見た。 林はそんな湯藤家当主に笑顔を向けて一枚の契約書をテーブルの上へ差し出した。 「勿論です。湯藤様。こちらが契約書です」 拓真は出された契約書を受け取り、目を走らせた。 契約内容は一年間、初音を自由に取り扱えるというもの。子供を妊娠したあとは出産まで湯藤家がサポートし、生まれた子供は湯藤家が引き取る。簡素な契約内容だが、拓真は嬉々としてこの契約書へサインをした。契約金は5億円。アルファが生まれるならば決して高い金額ではない。 「しかし、5億で契約なんて破格だね」 拓真が驚いていうと、林は初音を嫌そうに見下ろして説明した。 「粗悪品と思われたらなんなんですが、この商品は孤児なんです。親に捨てられて身寄りがないのでこうして仕事をしないと生きていけないんですよ。でも、既に三人のアルファを産んでますので、ご心配はしないで下さい」 経歴は最悪だが、商品価値はあると笑う林に拓真は安心したように胸を撫で下ろした。こうして淡々と進められる道具としての自分の価値に初音の心はまた一つ闇へと染まった。

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