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第8話

「あー!くそっ‼」 イライラすると、満は自室へ戻るなり、初音に対して不満の声を上げた。どさりとソファへ腰掛け、近くのテーブルを蹴り飛ばす。 机の上のものがぐらつき、それを見て満は目を閉じて本日、何度目かの溜息を吐いた。 何を言っても従順な態度と言葉の初音を思うと無性に腹が立った。契約をしに来た日も思ったが、人形のように覇気がなく、暗い瞳が気持ち悪い。何を考えているのか分からなくて、虫唾が走った。 「オメガってだけでも嫌なのに、あの陰気くさいのなんとかならないのか」 瞳を開けて、再び悪態つくと、満は手持無沙汰にテレビのリモコンへ手を伸ばした。テレビでも見て気分転換しようと電源を入れる。 しかし、脳裏に初音の姿が張り付いて益々苛立った。 「くそ!絶対あんな奴、抱かないからな‼」 自分にはアルファの婚約者がいる。 恋愛感情はないが、清く美しく気高い彼女を尊敬していた。アルファからアルファが生まれる確率は1%。アルファが生まれる確率は絶望的に低い。 事実上、オメガでしかアルファが生まれることはないに等しいのだ。 湯藤家は由緒ある家系でアルファに酷く拘りを持っていた。 自分を産んだのもオメガで、育ての母は実母ではなかった。 愛されていないとは思わないが、どこか線引きされている感覚が昔から拭えない。母の実子の弟はベータだった。 天真爛漫な性格の弟は母の愛情を受け、真っ直ぐ育っていた。 兄である自分を尊敬し、懐いてくれてもいた。 可愛いし、実の弟だと認めてはいるが、彼らの線引きする態度に満は常々、湯藤家は歪んで見えた。 父はアルファである自分を特別可愛がってくれている。後継者も自分で決まっていて、なに不自由ない暮らしだ。恵まれた環境なのは理解していた。だけど、なにかが胸に引っかかっていた。 それが初音を前にしてようやく理解できた。 アルファ製造マシーンのようなオメガ。 秩序を乱す根元を前にして嫌悪と憎悪を身に感じた。あのオメガを抱いて子を成したら、自分のような違和感だらけの子供が出来ると思うとゾッとした。 愛そうとしている婚約者が母のようになるかもしれないと思うとその思いはより強くなった。 自分の態度で初音が契約を破棄しないかと満は頭を悩ませる。 本当なら自ら破棄したいが、父の意向でそれは難しかった。それなら初音に破棄してもらわなければならない。 「あいつ、どうやったら出ていくんだ」 忌々しげに吐き捨てると、満は天を仰いで顔を両手で覆った。

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