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20.提案2
優しく肩を撫でられながら、その体温と彼の香りに少しずつ落ち着きを取り戻していく。
家族と言われても、どうしたらいいのかもわからず、ましてや無学な僕にはどういう風に他の人と家族になるのかすら未知だ。
「もし、不安なら1度彼らと会ってみないかい?」
「…でも……」
「大丈夫、私が選んだ人物だからきっと受け入れてくれる」
アデルバード様の提案を渋ってしまうのは、僕がまだロペス公爵家に未練があるからだろうか…。血の繋がった父や兄に僕のことを見て欲しいとまだ心のどこかで期待しているからかもしれない。
それでも、そんなこと思い続けていても意味は無いって分かっているから、僕は本当に小さくアデルバード様の提案に頷いた。
料理長のトマスさんがよく、可愛い一人娘と美しい奥さんのことを自慢してくるけれど、僕にもそういう自慢できるような素敵な家族が作れるのかな?
アデルバード様の顔を見て、この人ともちゃんと家族になれるのかなって不安になる。
僕みたいな人間が、幸せになっていいのかな…。
何も出来なくて、こうやって与えてもらうばかりの僕は、役立たずで出来損ないで、花人としての役割すらちゃんとこなせるのか怪しい。
それでも彼は僕をずっと傍に置いてくれる?
「そんなに不安そうな顔をしないで。顔合わせの時は私も傍にいるから。私は何があってもリュカのことだけは見捨てない、ずっと傍にいるよ」
髪を梳くように撫でられて、こめかみにキスを落とされる。
それをされると、ギュッて胸が苦しくなって、泣きたいような嬉しいような…けど、力が湧いてくるような複雑な感情に見舞われる。
ずっと、なんなのか分からないこの感情に名前はあるのだろうか。
自分の気持ちすら分からない僕は、その疑問の答えを知りたくてアデルバード様の胸の中に飛び込んで必死に抱きついた。
頭上で彼が微かに微笑む声が聞こえてきて、その声すら好きだなって思う。
アデルバード様は僕に狂わされたと言ったけれど、僕の方こそ彼におかしくさせられている気がする。だって、こんなに幸せなのに、彼が居なくなることに怯えてしまうような、そんな幸福感と寂しさが入り交じる感情なんて僕は知らないから。
「リュカ、好きだよ」
頭にキスが降ってきて、その言葉を受け取った僕は頬笑みを浮かべて僕も好きって心の中で応えた。
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