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21.欲しいもの
アデルバード様と家族について話した日から数日後に、僕はアデルバード様と共に僕の家族になってくれると言ってくれている人達の元に行くことになった。
会うのは緊張するし、受け入れられなかったらまた怖い思いをするんじゃないかって不安だけど、アデルバード様が守るって言って背中を押してくれたから震える体を引きずって何とか馬車に乗り込んだ。
前にも乗ったことのある豪華な馬車。
この国に来た時は先の未来を想像して、不安な状態で独りこの広い馬車に座っていたけれど、今日はアデルバード様も一緒だから安心する。
「リュカ、ほら外を見てご覧」
アデルバード様に言われるままに窓の外を見ると、お店がいくつも並んだ大きな通りに人がひしめき合っているのが見えた。アデルバード様も着ているような、この国独特の衣装を着ている彼らの行き交うこの場所は活気があってとても楽しそうに思える。
「彼等は皆私の民なんだよ。彼等を守ることが私の仕事だ」
「…どれだけ大変なことか僕には想像も出来ません…。僕もお手伝い出来たらいいのに…」
「私と婚姻すれば、彼等はリュカの守るべき民でもある。彼等を守るためにも、もっと逞しくならないといけないな」
そう言って、うっすらと笑った彼に僕は頷くことが出来なかった。僕が誰かを助けたり守ったりする立場になることが上手く想像出来なかったから。
アデルバード様は皇帝陛下だから、彼に嫁ぐということは皇后陛下になるということなんだ。それを思うと、僕では到底そんな立場にはなれない気がした。守られてばかりの僕はこのまま彼に嫁いだとしても、きっと彼の足を引っ張るだけだ。
「そうだ、リュカは何か欲しい物はないのかい?」
「…欲しいもの、ですか?」
「新しい衣装でも宝石でもなんでもいいから言ってごらん」
「そんなの、今与えてもらっているもので充分です…」
「私がなにかしてあげたいんだよ。大事な花人を飾りたいと思うのは天人の性 のようなものだから気にする事はないよ」
そう言って真っ直ぐに僕のことを見つめてくるアデルバード様に要らないとはもう言えなくて、頭の中で何とか欲しいものを絞り出してみた。
「……星が欲しい…」
僕だけの一番星、そして、僕を愛してくれる星。
アデルバード様はきっとその星だ。
僕は彼が欲しい。
彼さえ傍にいてくれればそれでいいとすら思う。アデルバード様の綺麗な銀の髪も宝石みたいな瞳も、彼の心すら、全部全部僕だけの宝物に出来たらどんなに幸せなことだろう。
「うーん…流石に空を飛んで星を持ってくることは出来ないな」
「…そう、ですね」
困ったように笑う彼に僕も苦笑いを漏らす。
本物の星じゃなくて、貴方が欲しいんですなんて言えるわけない。彼は充分過ぎるほど僕に寄り添ってくれているから。
それなのに欲張りな僕はもっと、もっとって彼を求めてしまうんだ。
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