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22.マシンガン

穏やかな沈黙が僕たちの間を支配していた。 お互い何かを話すでもなく、ただぼーっと流れる景色を見つめ続ける。どのくらい経ったのか曖昧になり始めた頃、ようやく目的の場所である、エーデルシュタイン公爵の邸が見えてきて、一気にその穏やかさは飛散した。残るのは有り得ないほどの緊張のみだ。 「大丈夫」 アデルバード様が僕の手に自分の手を添えて、僕と視線を合わせながらそう言ってくれたから、弱気な自分の心を奮い立たせて目の前に聳え立つ大きな邸を見返した。 馬車が止まると、アデルバード様にエスコートされる形で馬車から降りて、門の前で僕達を出迎えてくれたメイドさんに案内されて邸へと向かった。 「本当にお兄様がお越しになられたわっ!!!」 邸に繋がる、綺麗に手入れされた中庭を歩きながら咲き誇る花々に見惚れていると、邸の方から小さな影がこちらへと走り寄って来るのが見えて僕達は立ち止まるとその影がこちらに辿り着くのを待つ。 徐々に見えてくる姿に、それが14歳くらいの女の子だと分かった。 「エマっ!!その方がお兄様!?」 「お嬢様、皇帝陛下の御前ではしたないですよ」 「あらっ、私ったら。我らが太陽で在らせられる皇帝陛下にエレノア=エーデルシュタインがご挨拶申し上げますわ」 先程の慌ただしさはなりを潜めて、華やかなピンクのドレスの端を持って美しいカーテシーをした彼女に目を奪われた。明るいブロンドの髪にヴァイオレットのこぼれそうな程に大きな丸い瞳と、眩しいほどに整った顔つき、真っ白な透けるような肌に華奢な見た目は見る者の庇護欲をそそるのに、先程の元気な姿が印象に残っているからなのかとても勝気な子に思えた。 「エレノア、紹介させてくれ。リュカだ」 「存じ上げておりますわ。だって私のお兄様になる方ですもの!」 僕と視線を合わせたエレノアさんは、僕の手を取ってぐいぐいと邸の方に引っ張って行く。視線でアデルバード様に助けを求めると、行っておいでって口パクで言われて、おずおずと彼女に引っ張られながら邸の方へ一緒に向かった。 邸の入口でエレノアさんのお父様とお母様である、エーデルシュタイン公爵様と公爵夫人だと思われる方達が微笑ましそうに笑顔をこちらに向けて出迎えてくれて、なんだか優しそうな雰囲気に内心でとてもほっとした。 「リュカお兄様、こちらは私のお父様とお母様ですわっ!とっても優しくて、かっこよくて、素敵でしょう?お兄様も、とても素敵な方で私嬉しいですわ。私、ずっと兄弟が欲しいと思っていましたの」 マシンガンのように喋り続ける彼女は本当に心の底から僕がここに来たことを喜んでくれているように感じられた。まだ、彼女のではないけれど、それでもこんな僕を受け入れてくれたことに感謝した。

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