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23.皇后候補

エレノアさんと手を繋いでいる僕にエーデルシュタイン公爵様が1歩近づくと、おっとりとした優しげな口調で、いらっしゃいって声をかけて下さって、僕は慌てて自分の名前を名乗った。 「…リュカ=ロペスです。本日はお時間を頂きありがとうございます」 礼儀作法なんて分からないから、とりあえず名前を名乗ってお辞儀をすると公爵様も僕の真似をして、こちらこそ来てくれてありがとうってお辞儀をしてきてとても驚いた。 まさか公爵家当主がこんな風に頭を下げるなんて思わなかったから。 高位貴族の人達は皆プライドが高くて怖い人ばかりだと勝手に思い込んでいたから、その思い込みが間違いだったと反省する。 エレノアさんのものよりも少し薄いプラチナブロンドの髪に、垂れ目がちな青い目が、優しげでおっとりとした雰囲気を醸し出している彼は、僕の父であるロペス公爵とは全然違う雰囲気を持った人だという印象を受けた。 同じ公爵でもこんなに違うものなんだ…。 「ねえ、お父様。私、お兄様とお散歩に行ってきてもいいかしら?」 「構わないよ。私は陛下とお話をしないといけないからゆっくりしておいで」 そう言ってエレノアさんの髪を優しく撫でた公爵様に彼女は嬉しそうにはにかんで、ありがとうお父様って返事をすると、僕の手をまた引いて庭の奥の方へと向かって歩き始めた。 誰かと手を繋いで、こんな風に歩いたことがなくて、なんだかくすぐったいような、それでいて不思議と温かさを感じるような思いを抱きながら、エレノアさんに連れられるまま歩みを進める。 数分歩いて、邸の裏手に設置してあるガーデンテーブルの所に着くと、エレノアさんに促されてそこに腰かけた。 「ねえ、お兄様」 「…え、と…どうしたんですか?」 「ふふ、お兄様の方が歳上なのに敬語なんておかしいわ。私のことはエレノアって呼んで頂戴。それに敬語もいらないわ」 「…分かった…エレノア、どうしたの?」 僕が首を傾げると、エレノアは先程までの満面の笑みを引っ込めて急に真剣な表情で僕を真っ直ぐに見てきた。その表情になにかしてしまったかと不安になる。 「突然ですけれど、後から知られて誤解されるのは嫌だから言っておきますわね」 「…はい」 思わず敬語に戻ると、エレノアは1度息を大きく吸ってから覚悟を決めたように口を開いた。 「私、少し前まで次期皇后候補でしたの」 「…え……?」 エレノアの言葉が上手く呑み込めなくて、思わず言葉にならない声を漏らしてしまう。 色んな疑問や不安が一気に押し寄せてきて、何から聞けばいいのか、言えばいいのか分からなずに固まってしまった。 皇后候補ってことはアデルバード様と恋人だったの? 僕が来たから別れた? 過去形ってことは、皇后になれなくなったってことだよね…僕のせいってこと? 次から次に頭の中を飛び回る疑問たちに、僕はきっと変な顔をしていたんだと思う。エレノアは僕のそんな心境を読み取ったかのように、誤解しないでくださいなって僕の手を取って、やっぱり真っ直ぐ目を合わせながら言ってきた。

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