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32.合言葉
触れられた所から伝わってくる熱と彼の匂いを思い切り感じると心が落ち着いてきて、何もかも嘘だったんじゃないかってくらい穏やかな気持ちになれた。
僕はずっと前からアデルバード様無しでは生きていけなくなっている気がする。
目の前にある彼の首に抱きついて、首に鼻を埋めながら心を落ち着かせるように爽やかで甘い匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
「そうやって沢山甘えてくれたら嬉しい」
あやすように後頭部を撫でてくれる彼はそう言って小さく笑った。
「…僕…甘え方なんて、分かりません…」
「こんな風に頼ってくれたらいいんだよ」
「……でも…」
甘えて欲しい、頼って欲しいと言われても僕にはそれのやり方がいまいちピンと来ないんだ。
甘えたり頼ったりって言うのには縁遠い生活をしていたことも理由だけど、1番はやっぱり、僕なんかがってどうしても思ってしまうから、助けを求めたくてもつい口ごもってしまう。
煮え切らない返事をする僕からアデルバード様は身体を離すと、そっと僕の頬に両手を添えて、それならって形のいい唇を動かした。
「それなら、合言葉を決めよう」
「…合言葉?」
「そうだよ。助けて欲しい時や頼りたい時、なにか困ったことがある時にその言葉を言えば私がいつだってリュカの力になる。どんな言葉がいいかな?」
そう言ってふわりと笑ったアデルバード様に僕は鼻がつーんっとしてまた止まっていた涙が流れ出しそうな感覚を覚えた。
彼は優しい。
僕の気持ちを汲み取って、いつだって先回りして手を差し出してくれる。
「…僕の一番星……」
「その言葉がいいの?」
もしも、誰かに助けを求めたとして、きっと1番に思い浮かぶのはアデルバード様の顔で、彼はキラキラと輝く僕の一番星だから。
アデルバード様に頷くと、分かったって頬を撫でられて、それから両頬に手を添えたまま彼が自分の唇を僕のそれに合わせてきた。
彼とのキスは甘くて、まるで溶かされるように気持ちが良くて、大丈夫だよって言ってくれてるみたいにも思える。
「…アデルバード様、ありがとうございます」
「お礼なんていいんだよ。私はもっと早く気づいてあげていればって後悔しているんだから」
「…でも、助けてくれたから…。僕、アデルバード様が来てくれた時凄く嬉しかったです。だから、ありがとうございます」
ラナやラセットさんにもお礼を言わないと。
2人にも凄く心配をかけてしまったから。
お礼を言いながら微かに笑う僕のおでこにアデルバード様がキスをしてくれた。
「私はリュカのことが何よりも大事なんだ。だから、いつだって君の元に駆けつける。愛してるよ」
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