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33.気持ちの名前
愛してるよ______
その言葉が僕の胸の奥深くに届いて鳴り響いた。
ずっと分からなかったこの気持ちの名前の答えを知れた気がして、僕はじっとアデルバード様の瞳を見返しながらその言葉を心の中で噛み砕いていく。
「…愛してる…?」
「そうだよ。リュカの事が好きで、リュカのことで胸がいっぱいになって、リュカの行動1つ1つに一喜一憂するんだ。誰にも渡したくないし、何者からも守り抜きたい。それは全部君を愛してるからだ」
「…僕のこの気持ちも…愛してるってこと?」
「そうだと嬉しいな」
目を細めて嬉しそうに微笑まれて、そうかこれは愛って名前なんだって胸がぽかぽかするような、不思議な感覚になった。
「ねえ、リュカ聞いてもいいかな」
「…なんですか?」
「フローレンス=ワトソンになにをされたんだい?」
先程までの柔らかさは也を潜めて、甘いのに棘を含んだ声音で彼が尋ねてきて、僕は思わず叩かれた腕を抑えた。もう痛みはあまり感じないけれど、少しだけ感じる違和感に眉をしかめる。
「…見せて」
アデルバード様が僕の腕をそっと掴んで、袖を捲ると、叩かれた所にくっきりと赤い蚯蚓脹れが出来ていて、それを確認した彼のこめかみがぴくりと1度動いたのが分かった。
「痛い?」
「もう、痛くありません」
「…許せないな」
そう呟いたアデルバード様は腫れた箇所をそっと指でなぞって、腕に顔を近づけると何を思ったのかその場所に舌を這わせ始めた。
「あ、アデルバード様っ!?」
思わず腕を引くけれど、アデルバード様の力には適わずにぴくりとも動かすことが出来なくて、されるがまま、なんだか卑猥にも感じるその行為を目に焼きつける。
「民衆の間では唾をつけて怪我をしたところを消毒するそうだよ」
「…そ、それは…そうかもしれないですけど…」
彼の舌の感触が生々しすぎて、彼の話は右から左に流れて行ってしまう。恥ずかしくて、ずっと舐められていると変な感覚に陥って、なんだかむず痒いような、気持ちいいような気がしてくる。
「…ぁ…」
僕の小さく漏れた声が部屋に響いて、アデルバード様がしっかりとその声を拾い上げる。ほくそ笑むように口角を上げた彼は僕の腕から顔を離して、人差し指の腹で僕の太ももを撫でた。
「勉強はしばらく休みなさい。いいね」
「…っ、は、い…」
荒い息を吐き出しながらなんとか頷くと、アデルバード様は満足気に頷いてからその場に立ち上がって、座っている僕を抱き抱えるとそのままベッドへと向かって歩き出した。
そっとベッドに寝かされた僕の隣にアデルバード様も転がるとぎゅっと抱きしめられて、彼の胸の中に閉じ込められる。
「少し寝た方がいい」
「…あ、アデルバード様…服に皺が…」
「そんなことかまわないさ。それよりリュカの方が大事だ」
頭に回された彼の綺麗な手が僕の髪の間を縫って入ってきて、優しく梳くように撫でられる。
彼の匂いに包まれながら、戸惑いがちに言われるまま目を閉じると、更に強く抱きしめられて、その温もりに段々と眠気が襲ってきた。
自分で思うよりも疲れていたのかもしれない…。
それとも、アデルバード様に抱きしめられているからかな?
「おやすみリュカ」
「…おやすみなさい…アデルバード様」
耳当たりのいい彼の落ち着いた声を耳に入れて、僕は少しづつ微睡みの中に意識を預けていった。
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