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35.痛くしてごめん

柔らかなクッションが背中に当たる感触に、もう逃げられないと悟る。 「アデルバード様っ…」 彼から濃ゆく甘い香りが漏れていて、その匂いと熱に包まれると自分の中の何かがこじ開けられていくような感じたことのない感覚に陥る。 アデルバード様の手が僕の脇腹からどんどんと上へ登っていき、彼の指の腹が僕の胸の突起を掠めた時、ビクリと身体が大きく跳ねてやけに甘ったるい声が自分の口から漏れた。 思わず両手で口を抑えると、そんな僕を見ていたアデルバード様がふって微かに口角を上げて、その後に僕の服の中からすんなりと手を抜いた。 そして、僕の上から退くと僕を抱き起こして、何も無かったみたいに僕にキスをしてきた。 訳が分からなくて混乱する僕に先程の獰猛さを引っ込めた彼は、冗談が過ぎたねって言って謝ってから頭を撫でてくれる。 その先が無かったことに安堵したような、でも、何故だか複雑な気持ちになった僕はアデルバード様に撫でられながらむうっと唇の先を尖らせた。 「どうしたんだい?」 僕の尖った唇を指でつついてくる彼に、自分でもよく分からないって答える。 「辞めたから拗ねてるのかい?」 「!、っ違います」 「リュカは可愛いね。こんなに可愛いリュカに手を出せないなんて辛いけれど、まだ婚姻していないから我慢するしかないな」 甘すぎる彼の雰囲気と言葉にかーっと顔を赤くして、赤くなった顔を見られるのが恥ずかしくて彼の胸に自分から顔を埋める。 そうしたらそっと抱きしめられて、彼がまた、可愛いって言って僕の背を撫でた。 彼と婚姻したら僕は彼に抱かれるのだ。 ただでさえ少しのスキンシップでいっぱいいっぱいなのにこの先に進んだら僕はおかしくなってしまうんじゃないだろうか。 そこまで考えて、アデルバード様におかしくさせられるなら良いかなって思ってしまった自分の思考に更に羞恥心が増した。 「リュカは温かいな」 僕の項辺りに彼がキスをしながら呟いて、彼の息が首に微かに当たってくすぐったさに身悶える。そうしたら、僕の反応が面白かったのかわざとまた息をかけられて、僕はまた身体を震わせてなんとも言えない感覚に晒された。 「…食べてしまいたくなるね」 「…え…っ…」 不穏な言葉を口にしたアデルバード様は僕が返事をする前に、かぷりと僕の首元に噛み付いて、ジュっと音がするくらい強くそこに吸い付いた。 「…ん゛…」 痛みに眉を寄せて呻くと、アデルバード様は僕の首から顔を離して、痛くしてごめんって言いながらにこりと笑って僕の唇にキスをしてきた。

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