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36.お誘い

キスをされて恥ずかしがる僕にアデルバード様がもう一度キスをしようとした時、扉のノック音が聴こえてきて僕達はぴたりと動きを止めた。 「…入れ」 「失礼致します。エレノア様がお見えです」 「エレノアが?」 エレノアが来てくれたことに喜びを感じて顔をほころばせるとアデルバード様は僕を離して、行くように促してくれた。 それに少し名残惜しさを感じたけれど、エレノアを待たせる訳にも行かないし、僕も早く彼女に会いたいからお礼を伝えて部屋を出た。 後ろでアデルバード様が小さくため息を吐いた気がして少しだけ振り返るとアデルバード様はいつもの優しい笑みを浮かべて僕に行ってらっしゃいって言ってくれた。 気のせいだったのかな? エレノアが居るラウンジまで向かうと、彼女は優雅に紅茶を飲みながら僕のことを待ってくれていた。 僕に気がつくと、途端に満開の笑顔を浮かべて自分の目の前の席に座るように促してくれる。 言われた通りに目の前の席に腰かけると、控えていたラナが僕にも紅茶を用意してくれた。 「久しぶりエレノア」 「会いたかったですわ!」 相変わらず元気な彼女と話をするとなんだか自分まで元気になるような気がしてくる。 「今日はどうかしたの?」 「あらっ、用事が無ければ会いに来ては行けないの?」 「ううん、そんなことないよ」 わざと悲しそうな顔をするエレノアに笑って返すと、へへってエレノアが嬉しそうな顔をした。 どうして僕の義妹はこんなに可愛いのだろう。 「そうは言ったものの、今日はお義兄様にお願いがあってきましたの」 「お願い?」 「ええ、ミラー公爵家で毎年行われる大規模なパーティーがもうすぐ開催されるのだけど、そのパートナーをお義兄様にお願いしたいの」 「え、僕に?」 エレノアは僕がなにも社交界について知らないことは分かっているはずだ。それなのにどうしてマナーもなにも分からない僕にそんな大役を任せるんだろう。 「私は婚約者も親密な関係の方も居ないし、お義兄様と義兄妹になって初めてのパーティーだから、どうしてもお義兄様にお願いしたいの」 透き通るような輝くヴァイオレットの瞳で必死に見つめられて、僕は思わず分かったと小さく頷いてしまった。 僕の返事を受けて、エレノアは嬉しいわっ!って跳ね上がりそうなくらい喜んでくれて、それを見てもう後には引けないなって思う。 「…僕、マナーとか頑張って覚えるから。エレノアに恥はかかせないよ。約束する」 「お義兄様ったら優しいのね。でも、別に気を張らなくて大丈夫よ」 「ううん、僕がやりたいんだ」 「ふふ、嬉しいわ」 頬を染めて笑うエレノアを見つめながら、いつまでも休んでられないなって思って、アデルバード様に勉強を再開したいって伝える決心を固めた。

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