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38.新しい先生
結局それから少し暗い雰囲気になってしまって、エレノアも帰る時間になり簡単な別れの挨拶を交わしてお開きとなった。
帰り際無理に明るく振る舞うエレノアの顔が忘れられなくて悲しくなった。
大事な義妹にあんな顔をさせる辺境伯爵家の長男のことを想像してムカムカしてくる。
エレノアの恋が叶えばいいのにって思うけれど、エレノアは恋と夢を天秤にかけていて、どちらも応援したいと思う僕には彼女にかけられる上手い言葉が浮かばないんだ。
「エレノアは帰ったのかい?」
部屋に戻るために廊下を進んでいるとアデルバード様がバラ庭園で見かけた茶髪の男の人と並んで目の前から歩いてきて、僕は2人の目の前まで行くと立ち止まった。
「丁度先程別れました」
「そうかい。そうだ2人はまだお互い話したことが無かったよね」
そう言ってアデルバード様が僕と茶髪の人に交互に視線を向けてきたから、僕は彼にお辞儀をして微かに口元に笑みを浮かべた。
「リュカ=エーデルシュタインと申します」
「ルートヴィヒ=クラークと申します。長いのでルートとお呼びください。貴方のことは陛下からお聞きしております」
感情の起伏の無い平坦な声で自己紹介をしてくれた彼を真っ直ぐに見つめると、彼はすっと目を細めて僕のことを見てきて内心で首を傾げる。
「リュカが勉強を再開したらルートヴィヒに教育係を任せようと思っているんだ」
「そうなのですね。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、ええ…って簡素な返事が頭の上から降ってきた。
なんだか歓迎されていない雰囲気を感じたけれど、最初から受け入れてもらえるとは思わないようにしようと心に決めて、頭を上げると精一杯顔に笑みを浮かべた。
「アデルバード様、その件でお願いがあるんです」
アデルバード様に視線を移すと、彼がどうしたんだい?って聞いてくれる。
「明日からでも勉強を再開したいんです」
「…まだ、休んで2週間も経っていないけれど」
「エレノアにミラー公爵家で行われるパーティーのパートナー役を頼まれたんです。けど、僕はマナーも何も分からないですし、ミラー公爵家のことについても知りません。だから、パーティーまでに少しでも学んでおきたいんです」
真っ直ぐにアデルバード様の目を見て答えたら、彼は微かに驚いた顔をした後に、そうか…って呟いてから、勉強をする許可を出してくれた。
「早速ルートヴィヒに仕事が回ってきたな」
「…そのようですね」
ふう…っと息を吐き出したルート様によろしくお願いしますってもう一度頭を下げる。彼はそんな僕を厳しい目で見つめながら、明日から始めますとだけ言ってきた。
それに頷くと話が終わったって言うみたいに彼は1歩後ろに下がって僕から距離を取った。
「今から外に出る用事があるから、リュカはゆっくりしていなさい」
「…はい。お気をつけて」
僕の返事を聞いて、アデルバード様が僕の頭を1度優しく撫でてからそのまま僕の横を通り過ぎて行く。その後ろをルート様もついて行って、その後ろ姿を眺めながら、明日からの勉強が上手く行けばいいって思った。
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