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41.思い込みの正義
瞳を潤ませながらも泣くのを必死に我慢しているエレノアは見ているだけで痛々しく、この子にこんな顔をさせるアレンにふつふつと怒りが湧いてくるけれど、エレノアの想い人だから悪くいうことも出来ない。
「…ジュディ様はフローレス男爵家の長女なのだけれど、男爵家の子だと分かったのは最近になってからなの。たまたま男爵が立ち寄った村の平民が産んだ子でずっと隠されて生活していたみたいだけれど、最近になって認知されたみたい」
「…そうなんだね」
「貴族の常識が分からないことは私も理解しているのよ…それでも、学ぼうと努力することは出来るはずだわっ。それなのに…彼女はアレンが優しいからって甘えて、平民の価値観を貴族社会に持ち込もうとしている…そんなのここじゃ通用しない。それに…傍に居るアレンまで悪く言われてしまうわ」
そう言ってアレンのことを思いながら耐えきれなくなって涙を流し始めたエレノアをそっと抱きしめてあげる。
僕も貴族社会については疎くて、ジュディとは似たような立場にある気がする。それでも、エレノアの言う通り学ぶことは出来るって知っている。
「アレンとジュディはマクホランド辺境伯爵家で開かれた晩餐会で出会ったのですって。ジュディの天真爛漫な所が好きなんだって前にアレンが言っていたのを耳にしたことがあるの…。私…どうしてアレンのこと好きになったのかしら」
「…エレノア…」
僕の胸の中で涙を流すエレノアの背中を撫でてあげながら、どうしたら彼女の心を癒してあげれるのか考える。
けれど、いい案は浮かんでこなくて、エレノアが僕を助けてくれた時みたいには上手くいかない。ただ、大丈夫だよって声をかけながら優しく背を撫でてあげることしか出来ない自分に歯痒さを覚えた。
「…お義兄様…私は大丈夫よ…」
涙をハンカチで拭いた彼女は微かに口元に笑みを浮かべてそう言った。それが強がりだって分かっているのに、エレノアが真っ直ぐに僕を見て、目で大丈夫だと伝えてくるから、僕はただそれに頷くしか出来なかった。
「そろそろ戻りましょうか」
「…うん」
椅子から立ち上がったエレノアが僕の手を引いてくるから、僕もエレノアの横に並んで一緒に休憩室から出た。
会場に戻ると、僕達が入ってきたのを確認した1部の人達がねっとりとした視線をこちらに向けてきて、それに僕もエレノアも目を合わせて首を傾げた。
「ほら、言った通りでしょ!」
先程聞いた覚えのある高くよく通る声が会場の人達に聞かせるようにそう言って、にこにことほほ笑みを浮かべながら声の主がこちらへと近づいてくる。
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