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43.それは……

※パーティーの2週間程前に遡ります ____________ 少しだけ不安を抱えながら勉強をするために用意された部屋に向かう。またフローレンス先生の時みたいになったらどうしようって心配になりつつも、エレノアに恥をかかせないためだって気合を入れる。 「来ましたか。どうぞ、かけてください」 予定の時間よりも早く来たはずなのにルート様はもう準備を終えて僕のことを部屋の中で待っていた。慌てて席に着くと、彼は1度だけじっとこちらを伺うように見つめてから、では始めましょうと言って本を開いた。 「字は大分読み書きできるようになったと聞きましたが、一応確認をさせて貰います」 そう言って僕の目の前に開いた本を置いた彼が、ここを読んで下さい、って言って1つの文を指さした。 僕はそれを確認してから、1呼吸置いて声に出して読んでいく。ある程度読み終わるとルート様が辞めるように言ってきて僕は直ぐに口を閉ざした。 彼の少し冷たい声は微かに威圧感があって怒っているようにも聞こえる。 何か間違えてしまっただろうか? 不安になる。 けれど、彼は僕の予想していた言葉とは真逆の言葉を僕に向けて発した。 「大したものですね」 「……え?」 「短期間にあんな環境でここまで出来るようになるには相当努力しなければ無理でしょう。まずは自分を誇りなさい」 「誇る…自分を…?」 「そうです。否定するばかりでは何も産みません。たまには自分を甘やかして褒めてやらねばなりませんよ。そうしなければいつか何も出来なくなってしまいますから」 そう言って本を僕の目の前から回収した彼は羊皮紙を僕の目の前において、今から言う文を書いてみてくれと言ってきた。 言われた通りに羽根ペンを使って記入していくと彼は1度頷いてから、文字の勉強はもうしなくていいと言って羊皮紙も僕の目の前から回収する。 「…僕…まだ字も汚いし、読むのも止まったりしちゃいますけど…」 「それだけ出来れば後は慣れです。それよりも歴史やマナーを学ぶことの方が貴方には必要でしょう」 ルート様の言葉に頷くと、彼も僕の目を見て頷いてくれる。まるでしっかりと僕の様子を観察しているかの様に向けられる視線は、嫌なものではなくてむしろこの人なら頼っても大丈夫ではないかと思わせる何かがある気がした。 「さて、ではリュカ様。先に貴方には歴史やマナーを学ぶ前に、社交界でもっとも必要なスキルを身につけていただきます」 「歴史やマナーよりも重要なことがあるのですか?」 「そうです」 「それは…なんですか?」 恐る恐る尋ねると、ルート様はそれは…って言いながら、ずっとなんの表情も浮かべていなかった顔を崩して、僕に笑いかけてきた。 「それは笑顔です」

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