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44.そんな時こそ

「笑顔ですか?」 微笑む彼の言葉を繰り返すと、彼は顔を真顔に戻してからそうですって頷いた。 僕は自分の頬を指でむにむにしながら、笑顔を作るのって難しそうだって思う。 「何故、笑顔が最も重要か分かりますか?」 「…分かりません」 分からないことが恥ずかしくて俯くと、彼は顔を上げなさいって僕に言って、僕は言われるまま顔を上げた。 「そんな時こそ笑いなさい」 「…え…」 「自分に自信が無い時、相手の話が分からない時、窮地に立たされた時、そんな時こそ笑顔を浮かべるのです。社交界では笑みこそが最も自分を守ってくれる鎧です。なにか言おうとしなくていいのです。ただ笑っていれば相手は勝手に解釈してくれます。相手の内を探り合い、陥れ合うのが社交界です。ですから自分の考えていることを悟られないためにも笑顔を身につけておきなさい。それが無理なら私のように真顔に徹することです」 「…笑顔は鎧…」 「貴方はまだ未熟です。他の貴族と比べれば知識の差は歴然、赤子も同然です。ですが、それを相手に悟らせないように出来れば貴方は充分社交界で通用できるでしょう」 「…僕に出来ますか?」 「出来るかどうかなんて考えなくてよろしい。私がサポートします」 ルート様の言葉に、僕は微かに頷いた。 出来る自信なんてこれっぽっちもないけれど、ルート様がサポートしてくれるって言ってくれたから頑張ろうって思えた。 パーティー開催まで2週間程しかない。 その間に笑顔だけでも身につけようって思った。エレノアのためにも、自分のためにも、きっと今回のパーティーは僕にとって何かの足掛かりになる気がするから。 「僕…頑張ります!」 「その意気です」 ルート様は僕の言葉を聞いて、少しだけ表情を緩めてくれる。 僕の新しい先生は厳しくも優しい、尊敬できる方で、僕はきっとこの人となら頑張って行けるって確信する。 アデルバード様にもエレノアにも、そしてルート様にも誇れる自分になりたい。 まずは社交界デビューを成功させよう。 そう誓って、ルート様の涼し気な緑の瞳をしっかりと見返した。

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