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45.誇り
場面がパーティー会場に戻ります
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ルート様の言葉を思い出した僕は目を開けると、顔に笑みを浮かべた。
こんな時こそ笑うんだ。
笑顔のままジュディを真っ直ぐに見据えた僕は、少し困った風なトーンで彼女に話しかけた。
「なにか誤解しているみたいだね。僕とエレノアは仲違いなんてしてはいないよ?」
僕の言葉にジュディが、嘘をつかないでって言ってくる。僕はその言葉にも、嘘ではないよってただ淡々と笑顔を貼り付けて答えた。
「エレノア様はここ最近、宮殿へとあしげく通われているとか。陛下に会うためなのでしょう?リュカ様と義兄妹になってからその頻度が増したものだから、皆さん噂しておりますのよ。エレノア様がリュカ様との関係を利用して陛下に会いに行っていると。それにリュカ様は陛下から離宮に追いやられていると聞きましたわ。疎まれているから受け入れられているエレノア様に嫉妬しているんだわっ!」
何処からそんなことを聞いたのか、噂の内容をさも正しい事のように得意気に語る彼女に嫌悪感を抱いて眉を寄せそうになるけれど、それを我慢して必死に笑顔を作り続けた。
ルート様からみっちりと叩き込まれたこれはそう簡単には崩れることは無い。
「やはり誤解しているみたいだ。エレノアが宮殿に足を運ぶのは、あまりにも可愛い義妹と離れるのを寂しく思って、僕が無理を言って来て貰っているからなんだよ」
「…お義兄さま…」
僕の言葉にエレノアが表情を緩めて微笑んでくれる。それに僕も本当の微笑みで返して、またジュディに視線を戻す。
「嘘をつくなんてダメですわっ!皆様そう思うでしょう?」
彼女は正義感を振りかざしたいのか、迷惑そうにしている周りに同意を求めるように話しかけた。けれど、誰もそれに同意することは無い。
それはそうだ。
公爵家と男爵家、どちらを敵に回すのが得策かなんて天秤にかける必要すらない程に分かりきったことだ。
けれど、彼女はそれが分からない。
平民として育った彼女にはこの場所はきっと向かないのだと思う。
〜〜♪
その時、騒ぎをかき消すように曲が流れ始めて、皆一様にパートナーと踊り始めた。
一気に僕たちの間にあった緊張感は飛散して、話を聞いてもらえず今にも泣き出しそうなジュディを置いてけぼりにして、周りは談笑したりダンスを楽しんだりし始める。
「…エレノア、僕と踊って下さいますか?」
場の空気に乗るように、敢えて明るくそう言ってエレノアの前に手を差し出すと、彼女は一瞬ぽかんとした後にとても嬉しそうにキラキラと笑みを浮かべて勿論って僕の手に自分の手を重ねてくれた。
その可愛らしい笑顔を見つめながら、やっぱり彼女は笑っている方がいいって思う。
怒った顔や悲しい顔は似合わない。
今この瞬間、彼女のこの表情を守ることが出来たことにほっと胸をなで下ろした。
「とても楽しいわっ!お義兄様ったら、いつの間にダンスを習われたの?」
「とても厳しいけれど素敵な先生に教えて貰ったんだ」
ルート様からは笑顔の他にダンスとマナーをみっちり叩き込まれた。知識は最後の2日ほどで軽いことだけ。
授業中はほとんどが、笑顔にダンスにマナー、マナー。
大変だったけれど、こうして無事にエレノアと踊れているのだから頑張った甲はあったと思う。
ルート様にお礼を言わないと。
「ふふ、お義兄さまっ、大好きよっ!」
「僕も大好きだよ」
彼女の手をしっかりと握りしめて、リードしてあげる。
くるくると、花が咲いたみたいに笑いながら舞うエレノアはほんとうに可憐で素敵な僕の自慢の義妹だ。
彼女と出会った日、この子を守れるくらい強くなりたいって思った。
それが今日少しだけ叶った気がする。
だから、僕はルート様に言われたように、心の中で自分のことを誇りに思った。
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