48 / 78

48.誓いを

僕の胸の中で静かに涙をながすエレノアは嗚咽混じりに話を続けてくれた。 「……お母様が子供を産めない身体だと知らされた時、自分の浅はかさを恨んだわ。自分のせいなのに、何も知らずにずっと兄弟が欲しいと言っていたのよ……」 「まだ幼かったんだから仕方ないよ」 「……いいえ…。私はそれでも自分が許せなかった。由緒あるエーデルシュタイン公爵家に子供は私だけ…それが自分のせいだと言うなら、私が此処を引き継がないとって幼いながらに思ったわ。……けれど、アレンと婚約した状態ではいずれ辺境伯爵家に嫁がなければ行けないでしょう?だから、婚約破棄したの」 周りからは止められたわ…。 エレノアの言葉は1つ1つが重く、まだ14の少女が背負うには酷なことだと思ってしまう。愛する人を手放してまで、彼女は家の為に尽くすと言うけれど、それじゃあエレノアの幸せは何処にあるっていうんだろう。 「…エレノアはそれで幸せ?」 ぼくの質問にエレノアは顔を上げてしっかりと僕の目を見つめながら、幸せよって答えた。 その返答に僕は目を丸くしてしまう。 「前に私、お義兄様に嘘をついたわ」 「嘘?」 「年下が好きだと言ったでしょう?正確には年下じゃなくて、アレン=マクホランドのことを愛しているの。彼、私より少し産まれるのが遅かったから、年下には変わりないでしょう?」 「…それなら…どうして」 好きな人と離れてしまったのに、どうして幸せだと言えるのだろう? 「家の為に何か出来ることが嬉しい。家にいればお父様とお母様と離れなくて済むし、素敵なお義兄様も出来たわ。アレンとは道を違えてしまったけれど、彼が好きな人を見つけて今が幸せならそれでいいの。私もいつか彼を忘れて、他の人を好きになれるはずだわ」 何処までも彼女は強いとそう思った。 僕なんかよりもずっとずっと彼女は先を見据えている。けれど、自分の幸せよりも人の幸せを優先してしまう優しい彼女は、見ていて危うくその華奢な背中には背負いきれない沢山のものを抱えているから、壊れてしまわないか心配になった。 僕はエレノアの手を取ると、その手の甲に1つキスを落とした。 彼女のことを尊敬している。 僕の天使のように可愛い義妹は、いつも笑顔で気が強くて自由奔放に見えるけれど、その奔放さの中に自分の思いも何もかもを隠して生きている。 「エレノアのことは僕が守るよ。君が辛い時も悲しい時も、もちろん楽しい時だって、僕は君の義兄として傍に居てずっと君を守るから。だから、どんな時でも頼って欲しい」 僕の自慢の妹は少し頑張りすぎる節があるから。 初めて彼女に出会った時、指先しか握れなかった手を今はしっかりと握りしめる。 この華奢な手を守っていこう。 僕は今、彼女にそう誓った。

ともだちにシェアしよう!