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49.視察
パーティーの翌日、僕は公爵家の馬車に乗って宮殿へと帰ってきていた。
公爵家から宮殿まではそう遠くもなく、夕刻までには無事に辿り着くことが出来てほっとする。
「リュカおかえり」
「ただ今戻りました」
出迎えてくれたアデルバード様に挨拶をすると、突然抱き抱えられて、その浮遊感に驚いて思わず彼に抱きついてしまった。
「ア、アデルバード様っ」
「リュカと数日顔を合わせないだけで、寂しさでどうにかなってしまいそうだったんだよ」
「…は、恥ずかしいです。皆見てるのに…」
「ふふ、見せつけておけばいいさ」
アデルバード様はそう言って僕の頬にキスをすると、僕を抱き抱えたまま自室へ向かって歩き始める。3日ぶりに感じる彼の匂いに胸の鼓動がやけに大きく鳴っていて、僕を包み込むよう彼の体温を感じると安心して、僕は彼に身を任せて、幸せだなって顔を綻ばせた。
部屋に着くとアデルバード様がいつものように僕をベッドへと下ろす。
柔らかなベッドの感触に何故だかドキリとしてしまう。
「パーティーで色々あったみたいだね」
「そう、ですね」
泣いていたエレノアを思い出して複雑な気持ちになった。結局僕が彼女のために出来ることは何なのだろうって話を聞いてからずっと考えているけれど、答えは出てくれない。
「貴族達が褒めていたよ。リュカは堂々としていたって」
「…本当ですか?」
「本当だよ」
よく頑張ったねってアデルバード様が頭を撫でてくれて、その言葉と手の感触に心がふわって温かくなるのを感じた。褒めて貰えたことが嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。
「ねえ、リュカ。帰ってきたばかりで疲れていると思うのだけど、もうすぐ街へ視察に行くんだ。リュカも一緒に行かないかい?」
「街へ?」
アデルバード様の言葉に、前に見た楽しげな人達の姿が頭に浮かんだ。
1度でいいからあの人達の中に混ざって、買い物をしたりしてみたいと思っていたから僕は行きたいですってアデルバード様に答えた。
「それじゃあ、日程が決まったら教えるからね。リュカの護衛にはいつも通りラセットが着くけれど、視察に行く頃はラナは実家に帰っていて付き添うことが出来ないんだ」
「…そうなんですね…」
少し寂しいけれど、帰らないといけないなら仕方ないって納得する。僕のことよりも自分のことを優先して欲しい。
「すごく楽しみです!」
「良かった」
優しく微笑み返してくれるアデルバード様に自分から抱きついて、全身で嬉しいって表現すると、彼も抱き締め返してくれて、また彼のいい匂いが僕の全身を満たしてくれた。
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