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51.食べ歩き
楽しみなことっていうのは中々訪れなくて、うずうずした気持ちを抱えたままその日が来るまでなかなか寝付けないけれど、楽しみなことの前の日は余計わくわくしてしまって更に眠れなくなる。
そんな視察当日の寝不足な僕の目元をアデルバード様が優しく撫でてくれる。
「楽しみで眠れなかった?」
「……その、……はい……」
「リュカは本当に可愛いね」
アデルバード様の乗る馬に乗せてもらった僕は彼にしっかりと支えられながら初めての乗馬に少しうきうきしていた。それと同時に後ろから感じるアデルバード様の体温と匂いにドキドキしてしまう。
今日はお忍びみたいなものらしくて、馬車ではなくて馬で視察に向かうそう。
視察にはシシィとユンナが同行することをアデルバード様が許してくれた。
シシィはラセットさんの馬に一緒に乗っていて、ユンナは自分で馬を操縦していて、1人で乗る様を見た時はすごくびっくりした。
地面から鳴り響く馬の蹄の音を聴きながら、アデルバード様の匂いと髪を撫でる風に心地良さを感じる。
スピードが段々と緩やかになってくると、人々の賑わう声が耳に届いて、僕は思わず顔に笑みを浮かべて周りをキョロキョロと見渡した。
「馬屋に馬を置いてこよう。そしたら好きに見て回っていいからね」
「本当ですか!」
「ああ、リュカの行きたいところに行こう」
優しく頭を撫でられて、僕は頬を染めながらありがとうございますって感謝の言葉を伝えた。
馬を預け終えると、僕達はそのまま全員で街の中を見て回る。人の多い此処ではすぐに皆とはぐれてしまいそうで、不安になってついアデルバード様の手を握ると彼が微かに笑って僕の手を握り返してくれた。
「あらあら!そこのかっこいいお兄さん!!1つ買って行っておくれよっ」
屋台の建ち並ぶ道を歩いていると屋台のおばさんに声をかけられて僕達は立ち止まる。
街の人達はあまりアデルバード様の顔は知らないみたいで、こうやって気安く誰かが彼に話しかけるのを見るのは新鮮な感じがした。
彼女は手に、丸い形状の肉のようなものが串に刺さった食べ物を持っていて、初めて見るそれに僕が首を傾げると、アデルバード様が1つ貰おうっておばさんに代金を払った。
「ほら、リュカ。これはポロッニョと言って、この国の名産品の1つだよ。動物の肉を叩いて細かくしたものを丸めてタレに付けて焼いたものだ」
アデルバード様に差し出されて、僕は戸惑いながらもそれを受け取ると、どうしたらいいか分からなくて受け取ったまま固まってしまった。
「これって……」
立ったまま食べるなんて行儀が悪いよね……。
困り果てていると、アデルバード様が、ああ…って呟いて、突然僕の持っていたポロッニョにかぶりついた。
僕は驚きすぎて、思わずアデルバード様を凝視してしまう。
もぐもぐとポロッニョを頬張るアデルバード様はしっかりとそれを飲み込んでから、民間ではこうやって食べるのが普通なんだよって教えてくれた。
アデルバード様はいつも何もかも完璧で何処にも隙がないから、まさか立ち食いをするなんて思わなくて意外な一面に未だに驚いている。
「……い、いただきます」
僕はアデルバード様の真似をしてポロッニョにかぶりつくと、思ったよりも熱いそれに口をほふほふさせながら何とか噛み砕いていく。
あまじょっぱいタレの味と、じゅわりと口の中に広がる肉の汁が舌の上を滑って、噛みごたえもあってとても美味しい。
「……おいひいです!」
「よかった」
美味しい美味しいって食べ進める僕をアデルバード様が優しげに見守ってくれていて、その視線になんだか気恥しいような嬉しいような感じがした。
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