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55.花の行方
〜アデルバード視点〜
「……特に変わった所は無いようですね」
領主から渡された帳簿を確認していたルートヴィヒがそう言って私にもその帳簿を渡してくる。ざっと目を通しておかしな所が無いことを確認すると、その違和感に眉を寄せた。
「……本当に帳簿はこれで全部か」
「は、はいっ!陛下に嘘など吐きません」
「……そうか」
領主に帳簿を返すと、眉間に手を当てて違和感の正体を考えてみる。
聞き込みをした民全員が税が上がったと答えた。だが、実際に税が上がった形跡はなく、おかしな点も無い。隠している帳簿がある線も濃厚だが、突然現れた私をすんなり通したところから見ても嘘は吐いていないように思える。
「どう思う」
「なにか裏が有りそうですね」
『〜〜!っ〜!!』
ルートヴィヒと話し合いをしていると、外が何やら騒がしいことに気がついて領主に視線を向けた。
「何事だ?」
「確認をしてまいりますっ」
そう言って領主が使用人に確認に行かせると、私は領主から視線を外して、またルートヴィヒと話し合いを再開する。
「リュカは今頃何をしているだろうな」
「きっと、はしゃいでいるのではないですか」
「ふっ、確かにな。息抜きになればいいが……」
そんなことを話していると使用人が戻ってきて、後ろに見覚えのある人物も一緒にいることに気がついた。
「なぜここに居る」
「陛下っ!!!」
私の姿を見つけた彼女は私に駆け寄ってくると私の前に膝を着いて、涙を流しながら助けてくれと懇願してきた。
「何があった。リュカはどうした」
目の前でひたすら助けてくれと懇願してくる彼女は、リュカ付きのメイドの1人で今日はラナの代わりにもう1人のメイドと一緒に視察に同行していた。
しかし、肝心のリュカは居ないようでその事に酷く不安感を覚える。
「落ち着いて何があったか話せ」
「……リュカ様が……っ、リュカ様が攫われました……。護衛のラセット・バードも一緒です。リュカ様は、ロペス家の仕業だと……っ、陛下っ、リュカ様をお助け下さい…!!」
メイドの話しを聞いた私はくらりと目眩がする様な感覚に襲われた。
「っ……陛下っ…リュカ様から伝言があります」
続けざまに彼女がそう言って1層涙を流す。
「……なんだ……」
「……『僕の一番星』と伝えるようにと……私には意味は理解できませんが陛下なら分かられるはずです」
リュカからの伝言を聞き終えると同時に、私は手に持っていた資料を勢いよく床に投げ捨てて執務室から飛び出した。
「陛下っ!!お待ちください!」
「止めることは許さない」
屋敷の廊下を進みながら後ろから私を止めようとするルートヴィヒにそう答える。
「心配なのは分かりますが、闇雲に探しても見つけ出せる保証はありません!!」
「必ず探し出す」
「そう思うのでしたら、1度冷静になられてくださいっ!!」
ルートヴィヒが私の目の前に飛び出してきて、それに苛立ちが募る。
「黙れ!!」
つい出た怒鳴り声は思いのほか屋敷中に大きく響いて、それを耳にしたメイド達やルートヴィヒも驚いた顔をしていた。
無意識に天人特有の覇気が漏れ出て、それを感じ取ったのかルートヴィヒ以外の人間はその場から履けていく。
「陛下……」
天人の覇気に充てられて苦しそうに顔を歪めながらも私の前から動こうとしないルートヴィヒを睨みつける。
「退け。リュカが私に助けを求めているのだ」
「どうか冷静に」
「私の命令が聞けないというのか」
「そうです……首を切るなりお好きになさればいい。ですが、陛下を今は行かせるわけには参りません!まずはどうやってリュカ様を攫ったのか、何処にいるのかを探るべきです。手紙の件もありますから殺したり等はしないはず」
ルートヴィヒの言葉に苛立ちつつも、少しだけ冷静さを取り戻す。
リュカが攫われたと聞いて目の前が真っ暗になる感覚を味わった。
二人で決めた助けを求める時の合言葉をこんな形で聞くことになるなど思ってもいなかった。
先程までは私の隣で微笑んでいたあの子が今は心細い思いをしていると思うだけで辛く、早く見つけだして抱きしめてやりたいと思う。
「ルートヴィヒ」
「はい」
「宮殿に戻ってこの件について調べる」
「承知しました」
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