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56.残されたブローチ
〜アデルバード視点〜
直ぐに宮殿へと戻った私達はもっと詳しく話を聞くために先程のメイド、ユンナを執務室へと呼び出していた。
「リュカ様付きのメイドであるシシィ=オルコットが街の貧民街に私達を誘い出したのです」
ユンナの話を聞いて、ルートヴィヒにオルコット家とロペス家の繋がりを調べるように指示する。どうやらかなり周到に誘拐の計画が練られていたようで、税の件も私とリュカを引き離すための策の1つだったのかもしれない。大方、民を買収でもして高位貴族が来たらそう言うようにでも指示していたのだろう。
「陛下……シシィにもなにか事情があるはずです。ですから……」
「裏切り者に情けは無用だ」
「っ……ですが……」
「……わかった。リュカを助けた後にあの子にもどうするか聞いてみよう」
「……っ、ありがとうございます」
ボロボロと涙を流すユンナを見つめながら、リュカも泣いていないだろうかと心配になった。
早く見つけてやりたい……。
もしも怪我をしていたら……。
「……ご苦労だった。ゆっくり休め」
追っ手から必死に逃げてきたのだろう彼女は服も汚れていて、酷く疲れた様子だ。
私の言葉に少しだけ戸惑う素振りをしたユンナは、まだ居させてくれと私の目を見て言ってきた。
私はそれに、小さくため息を付くと分かったと答えてやる。
そこでユンナとの話しを終えるとタイミングを見計らったようにルートヴィヒが話しかけてきた。
「陛下、リュカ様が攫われたという場所まで遣いを出しました。そこにこれが」
「……ブローチ?」
琥珀の嵌め込まれたブローチをルートヴィヒが手渡してくる。それを受け取ると、ブローチから微かにリュカの残り香を感じて思わずそれを手で撫でた。
「……リュカ様が陛下の瞳の色に似ているからと、買われていたものですっ……リュカ様っ……」
ユンナの言葉を聞いて、心が苦しくなる気がした。重みのなかったブローチが一気に重みを増して、あの子の存在を私に主張してきているような気さえしてくる。
こんな物が見つかったとて、リュカが居なければ意味などないというのに……。
私は執務室の引き出しにブローチをしまうと小さくため息をついた。
しばらくして、ルートヴィヒが遣いに出していた者が数名戻ってきて彼に報告を行い始める。
「なるほど……わかった」
「早く報告をしろ」
急かすと、ルートヴィヒが私の目の前に来て遣いから聞いた内容を話し始めた。
「オルコット子爵家の当主であるピーター=オルコットとロペス公爵家当主のメイソン=ロペスはどうやら古い知り合いだったようです。若い頃ロペス公爵がこの国に留学に来ていた時に仲良くしていたとか。それから、オルコット家は財政難で何度もロペス家に助けて貰っている様ですね。もしかすれば今回のこともそれをネタに手伝う様に言われたのかもしれません」
「オルコット子爵家の領地は毎年水害が酷いからな。復興するにしても多額の金がいる」
「ええ。オルコット家の当主と話をされますか?」
「……時間が無い。オルコット家に別荘か何かはないのか。国から出るにしても1ヶ月はかかる。その間隠れられる場所が用意されているはずだ」
「探してみます」
ふう…っと1つ息を吐き出して椅子に背を預ける。
ロペス公爵家から手紙が来た時もっとしっかりと対応しておけばこんなことにはならなかった筈だ。
数ヶ月経って行動を起こすとは……。
私が浅はかだった。
リュカが傍に居ることに浮かれていたのかもしれない。
「……リュカ」
君は今何処にいるんだ……。
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