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59.どうか……
〜アデルバード視点〜
パキリと音がして、突然手に持っていたブローチに嵌め込まれている石にヒビが入った。
オルコット家の別荘捜索の合間、心配で落ち着かずリュカのブローチを取り出してはまた引き出しに仕舞いを繰り返していたが、突然のそれに私はじっとブローチを見つめて眉を寄せた。
「……嫌な予感がする」
自分の勘がリュカが今危ない状況だと告げている気がした。
「ルートヴィヒ!まだ見つからないのか!!」
つい声を荒らげると、外に出ていたルートヴィヒが執務室へと入ってきた。
「リュカの居場所は見つかったか」
「……いえ、ですがすぐに見つかるかと」
「どういうことだ」
「宮殿の前でシシィ=オルコットが膝まづいていると報告が」
ルートヴィヒの報告に私は眉を寄せて、すぐ連れてこいと命じた。彼女ならリュカの居場所も知っているかもしれない。
態々自分から現れるとは何を考えているのか分からないが、探す手間がはぶけて助かる。
ルートヴィヒの指示で使用人に連れてこられたシシィ=オルコットは酷く怯えていて、私の顔を見るとその場に跪いて床に頭を擦り付けながら謝り始めた。
それを冷めた目で見つめる。
「ロペス家と繋がっているのは分かっている。リュカの居場所を教えろ」
「……わ、私……そんなことをしたら……弟と妹がっ」
「オルコット家はロペス家に借金があるそうだな」
「……っ、突然ロペス公爵家から使いがきて、借金を全て返せと‥‥返せないのであれば言うことを聞けと言われて、さもなくばまだ幼い妹と弟を奴隷商人に売って金を作らせるとっ…!私っ、リュカ様にとんでもないことを……」
椅子から立ち上がると、シシィの目の前に立って震える彼女を見下ろす。壁際でユンナがこちらを心配そうに見ているのが視界の片隅で確認できた。
本当なら今すぐ拷問にでもかけて情報を吐かせるが、リュカはきっとそれを許しはしない。それにユンナとも約束をしたからな。
だから、私は彼女の目の前に膝を付いて目線を合わせるとしっかりと彼女の瞳を見つめてやる。
「借金のこともロペス公爵家のことも心配いらない。だから、リュカが何処にいるのか知っているなら教えてほしい」
「……弟と妹は……」
「すぐに保護しよう」
「……ぅ、ひくっ……ありがとうございますっ……」
シシィは何度もお礼と謝罪を繰り返して、その後にオルコット家が所有する別荘の場所を教えてくれた。
何ヶ所かあったそうだが金の工面のためにほとんどを売ってしまい、残っているのはそこだけらしい。
「ルートヴィヒ行くぞ」
「陛下……外はもう真っ暗です。今出るのは危険かと……」
「そんなことを言っている間にリュカに何かあったらどうする気だ」
「……数人護衛をつけます。準備をしますのでそれまでお待ちいただけますか」
「……わかった」
泣き続けるシシィをルートヴィヒが連れていき、私はまた椅子に腰かけた。
割れてしまったブローチを見つめながら、リュカの無事をひたすらに祈る。
私の花人……私の花嫁……
私の愛する人
どうか……どうか彼が無事でいますように。
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