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77.天使さん
〜アステル視点〜
お屋敷に来てからずっとお花みたいな甘くていい匂いがしていて気になっていた。
お母様がエレノア叔母様とお話をするからって向こうの方に行っちゃて僕は1人で椅子に座って待っていたんだけど、やっぱりこの匂いが気になって思わず部屋から飛び出してしまったんだ。
匂いが強くなる方にどんどん進んでいくと、沢山のお花が植えてあるお庭まで辿り着いた。ガサゴソとお花達の間を進んでいくと、僕よりも少し年下くらいの子が、置いてあるベンチの所に居るのが分かって僕はその子の方に向かった。
あの子から同じお花の匂いがしたんだ。
「なにしてるの?」
話しかけると、その子は僕の方を見て少し怖がってるみたいに肩を揺らした。
「……天使さん?」
思わずそう尋ねてしまう。
真っ白に近い金色の髪に空を溶かしたみたいな薄い青い瞳が凄く綺麗で、ひらひらの服を着ているから天使さんがお空から落ちてきたんだと思ったんだ。
「……あ、ぅ…、うぇ……」
「?」
「うぇえええん!!」
天使さんは僕を見て突然大きな声を出して泣き始めてしまった。それを見て、僕は天使さんが泣いてるのは嫌だなって思ったんだ。
天使さんの隣に座って、よしよしって頭を撫でてあげる。
天使さんに触った所がなんだかビリビリするけれど、そんなの気にせずにずっと撫でてあげていると、突然天使さんが僕に抱きついてきてお花の匂いがまたふわりと香り始めた。
「ままっ」
「ママとはぐれたの?」
僕のお腹にグリグリと頭を押し付けながら泣き続ける天使さんはずっとママって言っていて迷子になって寂しかったんだなって思った。
その子の緩いくせっ毛を撫でてあげながら、僕が一緒に居るから大丈夫だよって言ってあげる。
そうしたら涙で濡れた瞳を僕の方に向けた天使さんが、ずっと一緒?って不安そうに聞いてきて、ずっと一緒だよって返事を返してあげた。
その子自身のお花の香りと、お庭の緑の匂いに囲まれながらしばらく天使さんの頭を撫でてあげていると、遠くの方から誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。
「セレーネ!どこ居るんだよっ!!」
「ママっ!」
聞こえた声に反応して天使さんが顔を上げた。
「ママっ、きたのっ」
僕にそう報告してくるその子に良かったねって言ってあげると、じっと僕の方を見つめてきた天使さんがにこって満面の笑みを浮かべた。
「お兄ちゃんありがとうっ、大好きっ」
そう言って僕の頬に軽くキスをしてから、声の方に駆けていくその子を僕はぼーっと見つめ続ける。
遠くの方で、あの子と同じ髪の色をした綺麗な男の人があの子を抱きしめていて、またあの子に会えたらいいなって思った。
「アステルっ!」
あの子とあの子のママが居なくなってから数分後に、お母様の僕を呼ぶ声が聞こえてきて僕は慌てて声のした方に向かった。
「お母様っ」
「アステル……アステル!良かったっ」
ギュッて抱きしめられてお母様の温もりに少しだけほっとする。
「勝手に居なくなったら駄目じゃないか」
「ごめんなさい……」
「……こんな所でなにをしていたの?」
ぼくの頭を撫でながらお母様が尋ねてきたから、僕は顔を上げてさっきの香りを思い出しながらお母様に天使さんの話をした。
「あのねっ!天使さんに会ったのっ」
「天使さん?」
「うんっ!ずっとお花の匂いがしてたのっ。僕気になってその匂いを追いかけてたらね、すっごく可愛くて綺麗な天使さんに会ったんだっ」
「……それって……」
お母様が少しだけ困った顔をするから、僕何か変なこと言っちゃったかなって不安になった。
「お母様も天使に会ったことある?」
不安げにたずねたら、お母様は少し何かかんがえてから、あるよって答えてくれた。
僕はそれにぱああって笑顔になって、ほんとう!?ってもっかいたずねたんだ。
「本当だよ。お母様はね天使さんの弟だったんだ」
「え!すごいっ!!じゃあお母様も天使さんなの?」
「ふふ、どうかなあ。さあ、そろそろ皆に顔を見せに行かないとみんな心配してアステルのことを探しているからね」
「ごめんなさい……」
しょぼんってしたら、お母様がまたなでてくれて、手を引かれながらお庭から出た。
皆が居るところに向かうと、僕を見て皆ほっとした顔をしていて、行けないことしちゃったって反省したんだ。
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