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第2話始まりはバレンタイン―2(✱✱)
「僕は男が好きなんじゃなくて、青くんが、好きなんだよ。可愛くて綺麗だもん。その辺の女子なんかと付き合ってほしくない」
「気持ち悪いこと言うな……っ」
相手は小柄で、しがみついてくる腕を振り払うのは簡単なはずだったが、
傷つけたくないと言う気持ちが働く。
青は、やはり礼儀正しいお坊ちゃんだった。
お育ちがよろしいので、暴力的な手段は、一切思い浮かばない。
「っ……」
唇が重なる。あっという間に、舌が忍び込んできた。
濃厚な口づけ。したことはあっても奪われるのは、初めてだ。
学ランのボタンがいくつか外されて、頭が沸騰した。
「……俺を甘く見るな」
押し倒されていた青は、少年の体を逆に押し倒した。
体勢が、入れ替えられてしまったことに、興奮したのか、相手は、嬉しそうに笑う。
「男は興味ないんでしょ」
「痛い目に合わせてほしいようだから」
名前も知らない少年は、青を見上げて頬を染めていた。
「……お前、蒼宙(あおい)か。確か小学校が同じだった」
「覚えててくれたんだ……!」
同じ小学校だったし6年の頃は同じクラスだったはずだ。
そんなに話した記憶もなかったが、小動物のような雰囲気が印象的なのを覚えていた。
「俺と名前似てるなって。俺は別の読みであおだから」
「青い目をしてるから、青だよね」
「……よく覚えてるな」
「綺麗なのに中学からはコンタクトにしちゃったんだね」
コンプレックスを残念そうに言われ、八つ当たりで、苛立ってしまう。
「……んっ」
乱暴に口づけすれば、蒼宙は、喘いだ。女と反応は同じだなと、醒めた心が言う。青は、
シャツに手を差し入れて、笑った。
「蒼宙は、男じゃなくて俺が好きなんだね」
「……そ、そうだよ」
「人の気持ちを否定する気はないけど、
やり方が不味かったよね。分かってるの?
襲いかかるのって相応の覚悟がいるよね」
「も、もちろん」
蒼宙が、息を飲んだ。
「俺も、男には興味ないけどお前ならいいかな。
今まで他の女子みたいに、あからさまな視線も向けてこなかったから」
青は、わざとらしく口にした。
遊んでいるだけだった。
蒼宙は、震えながら、青の行動を待っている。
「……せ、青くん……大好き」
唇に噛みついて、蒼宙の肌をなぞった。
上から下まで。けがわらしいとは思わなかった。
蒼宙が、調子に乗って青の身体に触れてくる。
不躾な指が、躊躇いもなく、下腹に触れて撫でた。
「……いい度胸だ。許可もなしに触るなよ」
青が、蒼宙に、触れたら彼は甘い声をもらして、動かなくなった。気を失ったらしい。
「……おい、起きろ」
心配になって頬を打つが起きる気配はない。
幸せそうに目を閉じているので、放置することにした。衣服を直し、部室を出ていく。
「……魔が差しただけだ」
独りごちると、夕暮れの空を見上げた。
蒼宙に告白された日の夜、青は姉に相談をしていた。
姉の翠(みどり)は先日から1週間の日程で息子(青の甥)を連れて、里帰りしているのだった。
「ぶはっ……」
「姉さん、汚いよ。何なんだよ。人の話を真面目に聞いてよ」
お茶を吐き出した姉の顔を青は、丁寧に拭った。
「青くんってば、優しいなぁ」
青より13歳上で27歳の姉は青の行動を絶賛した。
甥の砌(みぎり)は、姉の部屋で、既におやすみ中だ。翠の夫の陽(よう)は内科医で藤城総合病院に勤務していた。姉の翠よりも4歳年上の義兄は、青とは17歳も離れているため青にとっては尊敬すべき大人だ。宿直の陽が帰宅するのに合わせ翠も帰る予定だったので、彼女の帰宅前に悩みを話せてよかった。
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