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第2話

「僕は男が好きなんじゃなくて、青くんが、好きなんだよ。可愛くて綺麗でさ、その辺の女子なんかと付き合ってほしくない」 「気持ち悪いこと言うな……っ」 相手は小柄で、しがみついてくる腕を振り払うのは簡単なはずだったが、 傷つけたくないと言う気持ちが働く。 青は、やはり礼儀正しいお坊ちゃんだった。 お育ちがよろしいので、暴力的な手段は、一切思い浮かばない。 「っ……」 唇が重なる。あっという間に、舌が忍び込んできた。 濃厚な口づけ。したことはあっても奪われるのは、初めてだ。 学ランのボタンがいくつか外されて、頭が沸騰した。 「……俺を甘く見るな」 押し倒されていた青は、少年の体を逆に押し倒した。 体勢が、入れ替えられてしまったことに、興奮したのか、相手は、嬉しそうに笑う。 「男は興味ないんでしょ」 「痛い目に合わせてほしいようだから」 名前も知らない少年は、青を見上げて頬を染めていた。 「……お前、蒼宙(あおい)か。確か学習塾が一緒だったな」 「覚えててくれたんだ……! 」 「俺と名前似てるなって。俺は別の読みであおだから」 「青い目をしてるから、青なんでしょ」 「……それ、誰から聞いたんだ?」 「……適当に言ってみたんだけど、あたったの? じゃあ、茶色い目はコンタクトなんだ」  自分で秘密を暴露してしまった。八つ当たりで、苛立ってしまう。 「……んっ」  乱暴に口づけすれば、蒼宙は、喘いだ。女と反応は同じだなと、醒めた心が言う。青は、  シャツに手を差し入れて、笑った。 「蒼宙は、男じゃなくて俺が好きなんだね」 「……そ、そうだよ」 「人の気持ちを否定する気はないけど、  やり方が不味かったよね。分かってるの?  襲いかかるってさ、それ相応の覚悟がいるよね」 「も、もちろん」  蒼宙が、息を飲んだ。 「俺も、男には興味ないけどお前ならいいかな。  今まで他の女子みたいに、あからさまな視線も向けてこなかったから」  青は、わざとらしく口にした。  遊んでいるだけだった。  蒼宙は、震えながら、青の行動を待っている。 「……せ、青くん……大好き」  唇に噛みついて、蒼宙の肌をなぞった。  上から下まで。けがわらしいとは思わなかった。  蒼宙が、調子に乗って青の身体に触れてくる。  不躾な指が、躊躇いもなく、下腹に触れて撫でた。 「……いい度胸だ。許可もなしに触るなよ」  青が、蒼宙に、触れたら彼は甘い声をもらして、動かなくなった。気を失ったらしい。 「……おい、起きろ」  心配になって頬を打つが起きる気配はない。  幸せそうに目を閉じているので、放置することにした。衣服を直し、部室を出ていく。 「……魔が差しただけだ」  独りごちると、夕暮れの空を見上げた。  蒼宙に告白された日の夜、青は、姉に相談をしていた。  姉の翠は先日から1週間の日程で息子(青の甥)を連れて、里帰りしているのだった。 「ぶはっ……」 「汚いよ、姉さん。何なんだよ、人の話を真面目に聞いてよ」  お茶を吐き出した姉の顔を青は、丁寧に拭った。 「青くんってば、優しいなぁ」  青より4つ年上で27歳の姉は青の行動を絶賛した。  甥の砌は、姉の部屋で、既におやすみ中だ。内科医の義兄は、宿直である。

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