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第3話

「……それにしても、やっぱり青って、誰にでもモテるのねぇ」 「モテてないし」 「またまたぁ、照れちゃって」  翠は青の持ち帰ったチョコレートを食べながら、笑う。 「……照れてないから!」 「でもね、私が帰ってきてるからって、話してくれたのうれしいわよね。いい子、いい子」  頭をぐりぐりと撫で回されるのに任せる。  もう、仕方がないと諦めた。  13歳違う翠は、5歳で母を亡くした青の母親がわりのつもりでもいるのだろう。  上手く甘えたこともないけれど。 「何かさ、迫られて、イラッときたから、  つい、さ……でも、俺は別に男が好きなわけじゃ……」  ごにょごにょと口ごもる青に、翠はあっけらかんと言った。 「付き合っちゃえば!」 「……うーん」 「ファーストキスを保育園時代に、  無理矢理奪ったことに比べたら、健全よ。  女の子とか男の子とか関係ないわ。  愛があればいいんだから」 「……昔のことは持ち出すな! あんなのは、黒歴史だ」 「青、あの子に失礼よ。そんなことは言っちゃいけないわ」  姉の正論に押し黙る。 「……ごめん、お姉さま」 「殊勝に謝るんじゃないわよ。  どうせ、その悪魔の魅力で、蒼宙ちゃんを首ったけにしたくせに」 「悪魔の魅力……って何? 」 「自覚してても恐ろしいけど……ここまで  無意識の誘惑も……ああ」  顔を覆って大げさな演技をする翠に、呆れて青は部屋を出た。 「……相談するんじゃなかった! 」  部屋に戻ると、机(デスク)の前に座る。  一通り、体育以外の明日ある教科の予習をして、鞄に教科書をしまう。  ベッドにもぐった。  勢いで、あんなことになったが、少し冷静になろう。あいつも、嫌気が差しただろう。  何故気絶したのかは、理解できなかったが、  多分元々体調が悪かったんだろうと、青は自己解釈して瞳を閉じた。  投稿すると、校門前で蒼宙が待っていた。 「おはようっ、青くん」 「……おはよう」  昨日のことを意に介してないような満面の笑みの蒼宙に、  内心こいつは、大丈夫かと思っていたが、極めて真顔で応じた。 「ご機嫌だね、蒼宙くん。どうしてそんなに、楽しそうなの?」  校内に早足で向かいながら、後ろの蒼宙につぶやく。 「だって、青くんが告白OKしてくれたんだもん」 「……こっちへ来い」  屋内履きに履き替えた後、蒼宙の首根っこを掴んだ。周りに注意を払いながら。  中庭に連れていき、蒼宙に向き直る。 「付き合うとは言ってない。勘違いするな」 「ええっ……あんなことしといて」 「頬染めんな!」 「嬉しかったんだもん」  青は、口元を押さえた。 (妙な犬を手懐けたらしい) 「付き合うのは、お互いの好きって気持ちで成り立つものじゃないか……つまり」 「別に気にしないよ。青くんが、僕を好きになればいいだけの話でしょ」 「大した自信だね?」 「僕の好きが、伝わったら、好きになってもらえるはずだよ。男は嫌いなはずなのに、  キスしたり触ったりしないよね。  青くんは僕に希望持たせたんだよ」  青は内心ため息をついた。  やられたら、やり返しただけだったが、  本気で嫌なら触れはしなかっただろうと、今更ながら気づかされた。

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