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第5話
クスっと笑う青に、蒼宙も笑い声をあげた。
「放課後、迎えが来るから、行こうな」
「うん! 」
放課後、校門前で連れ立って車に乗った二人を見て、
目撃した生徒からどよめきが上がっていた。
「青さま、素敵なお友達をご紹介して下さいませんか? 」
青より6つ歳上の若い女性運転手は、
後部座席に乗り込んだ青と蒼宙に微笑みかけた。
普段は、助手席に乗るが、今日は蒼宙がいるので、後部座席に乗ることにした青である。
「蒼宙です。よろしくお願いします! 」
「ああ、篠塚教授のご子息ですよね。
お目にかかれて光栄です。藤城家で、
去年から、たまに専属運転手をしてます。
双葉弥生です。よろしくお願いします」
「たまなんですか!」
弥生は、ギアを入れながら、応える。
「だって、普段は、お車を使われませんもの。青さまは、地下鉄で通学されてますからね。
駅までは自転車で向かわれてますけど」
「あお、駅前で待ち合わせて一緒に通学しようよ!」
「ま、まぁ、考えてもいい」
「双葉さんには、悪いけど本当は、地下鉄であおのお家まで行きたかったなあ」
「まぁ、青さまと少しでも長く一緒に、過ごされたいのですね」
「はい!」
「……後で覚えてろ」
ボソっと耳元でささやくと蒼宙は、
「青に脅されても怖くないよ。だからさ、クラスでもそんな感じでいいと思う。
いや、駄目か。ますます人気が」
「別にどう思われようが、かまわないけど、
楽に呼吸するために演じてるんだよ」
青の言葉を聞いているのか、いないのか、蒼宙は、食い入るように外の景色を見ていた。
「うちより、ずっと大きいや。敷地もすごいし……」
「……そ、そうか」
東側から、外壁をめぐり、外門を入っていく。弥生が、リモコンで門を開けていた。
「わー、広いお庭! 」
「いちいち騒がしいな」
「青さま、本音が漏れてますよ」
「弥生さん、いいんだ。俺の愛犬だから」
「え、何か言った? 」
「何でもないよ」
弥生は、くすくすと笑いながら、扉を開ける。青は、蒼宙の手を引いて車から降りた。
「お姫様になったみたい」
蒼宙は、見た目は置いといて男だが、女子のような振る舞いをする。
青は女の子扱いされて、いい記憶はなかったので、彼の言動は意味不明だった。
「……あおが、王子さまだから、お姫様だなって思っただけなんだよ。
僕は女の子じゃないけどさ……」
「そっか。なら、浮かれてろよ」
蒼宙という少年の純粋さは、微笑ましくて、まぶしかった。このままでいてほしいとか、
無意識に心で願ってしまう。
「ありがとう」
「……行こう」
強く手を握って、歩き出す。
チャイムを鳴らすと、ハウスキーパーの女性が、応対に出た。
「青ぼっちゃま、おかえりなさいませ」
しばらくすると、扉が開いた。
蒼宙は、興奮しているのか、あからさまに
表情を輝かせていた。
冷めた自分とは違い、感情表現が豊かなので、好ましい。
そう思う自分がいて、不思議な心地だった。
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