7 / 9
第7話
「か、かっこいい! 美しい!」
「は!? 座っただけだろ……」
「絵になるって僕も思っちゃった」
「うざいから、早くリクエストでも言え」
ぷい、とそっぽを向くと、蒼宙は、笑った。
「愛の挨拶がいいなー」
「ふざけんな! 却下」
「リクエストに制限があるの? 」
「……小っ恥ずかしくないやつなら」
「あおって、かっこかわいいんだね。よくわかった」
「……もう知らん。勝手に弾くから適当に聴いてろ」
叩くように鍵盤を弾きはじめる。蒼宙は、ピアノの上に肘をついて、青を見ていた。
子犬のように目を輝かせて見つめているのが、伝わってきて、怯む。
バレないように、一心不乱にピアノを弾きまくる。
「あお? 」
違う世界にいってしまったのかと、
心配した蒼宙に声をかけられて、ようやく演奏を終えた。
「ぱちぱちぱち!」
「声で拍手するな。アホか!」
「声の方が伝わるかなって」
「……まぁ、いい。お前、楽しそうだし」
「楽しかったよ!」
「お前さ」
「なあに?」
「俺を呼び出したあの時、本気だったのか?」
「……襲いかかったのは、決死の覚悟だよ。気味悪がられてもいいかと思った」
「気味悪かったことはないが……」
「あおは、恋愛とか女の子には、慣れてるんだろうなって。もうしてそうだし」
「……したことない。どんなイメージだよ」
「そ、そうなの? ほっ、とした」
頬が熱を持つ。蒼宙に、そんなふうに思われていたのかと、青はちょっとショックだった。
「あのな、俺、お前と同い年なんだけど。
勝手に女好きの経験豊富なマセガキにすんなよ」
「そんなつもりじゃなかったけど」
「別に同性を好きになるのに偏見はないから、気味悪いとは思わなかったんだよ」
「じゃあ、僕のこと好きになって」
抱きついてくる。ピアノの椅子に座っているから、膝に乗られた状態だ。
首に回された腕は、華奢だった。
ぽんぽん、と背中をたたく。
「付き合うか。そしたら恋愛感情で好きになるかもしれない」
「本当に? 付き合ってくれるの!」
「……男に恋したことはなかったけど、
お前なら付き合いたいって感じる」
今はそう返すので精一杯だ。
こんなに純粋に恋い慕う蒼宙を大事にしたいって、感じる。恋かどうかは分からなくても。
「じゃあ、キスしよ?」
ねだるのではなく、誘った。
こっちの方が好みだなと感じてしまう。
して、と言われてもしたかもしれないが。
「……っ」
噛みつくように口づける。
何度も啄んで放して、深く唇を重ねた。甘い吐息が聞こえる。
蒼宙は、青にしがみついていた。
青は蒼宙の肩を掴んで、キスを繰り返す。慣れているわけじゃない。
したかった。触れてみたかっただけ。
いつしか、自分も荒々しい息を紡ぎ出し、
キスに溺れていた。
(とっくに好きなのかもな)
深く口づけると、体温が伝わった。
ともだちにシェアしよう!