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第8話

「……蒼宙」 「ん? 」 「大きくならなくていいよ。そのまんま小さいお前でいろ」 「ずるいなあ。そんなこと言うなんて」 「……小さい方が都合がいい」 15センチ低い蒼宙は、160センチに届かない。 「でも、あと5センチはせめて……ほしい」 「……かなうといいな」 背中を抱きしめながら笑う。 蒼宙を送っていった時は、少し寂しかった。 翌日、昼休みに屋上で蒼宙と待ち合わせた。 「……ドッキドッキ」 「は?」 「だって、これってデートだよ! 昨日はおうちにお呼ばれしたし、もう付き合ってるってことでいいんだよね」 「……まぁな」 蒼宙の無邪気さにうろたえながら青は、弁当箱を広げる。 教室以外で食べてもいいということを忘れかけていたが、思い出した。 夕食後に蒼宙に電話したら、かなり興奮していて、青を動揺させた。 (本気(マジ)で、小動物だな) 「ねぇ、交換っこしよー」 「……わかった」 蒼宙は、女の子かと思う可愛らしいランチョンマットを膝に広げ弁当箱を開けた。 「……なんでお前はそんなに無邪気なんだ?」 「あおの前だからかなあ」 「ぐっ……」 青は、弁当の中身を喉につまらせかけた。ご飯の上に置かれた梅干しである。 ハウスキーパーの女性の自家製の梅干しは、塩分と糖分の割合が絶妙で、幼い頃から好きだった。はちみつが使われていて、ほどよい甘さが酸味を抑えている。 「大丈夫!?」 背中をさする蒼宙が、かわいかった。 「大丈夫だ」 「あのね、あおには秘密言っとこうかな。 お医者様の息子だし、藤城家で育ったから、きっと大丈夫かなって」 「……大体予想はつくから言わなくてもいい。お前が言う通り偏見もない」 さりげなく、制した。気持ち悪いだなんて、 思ったことなどない。あの時襲われかけた時、男だと知りつつ反撃したのは…… きっと、蒼宙だったからだ。 男でも女でもどちらでもない独特の雰囲気を持つ彼だから、こうして共にいる。 (俺は今何を考えた……?) 「ありがとうね。はい、これ、お母さん特製の肉じゃが」 「じゃあ、きんぴらごぼうでも食え」 「渋いなあ……あおのお弁当」 「好きなんだよ。悪いか」 「悪くないよ……僕のことだったら余計に嬉しいけどさ」 「……嫌いなやつと昼を一緒に食べるほど、酔狂じゃない」 「早く恋の魔法にかかって」 咀嚼し飲み込んで、見つめあう。 「……かかってるよ」 「やったぁ!」 手を握り、頬をすり寄せてくる。 遠慮がちな距離を超えてもいいと思ったのか、子犬のように懐いてくる蒼宙。 「男同士は、怪しまれないから便利だよな……」 「……あ、うん」 「悪い! そんな顔をしないでくれ。違うんだ」

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