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第9話
「分かってる。あおは器用じゃないんだもん。好きなら好きで、嫌いなら嫌いでしょ。
女の子と付き合うのも……いいんだよ。
浮気だとは思わないし」
「いや、男でも女でも違う相手だったら、浮気だろ。二股なんて冗談じゃない」
弁当箱を片づけて、空を見上げていた蒼宙の腕を引いた。
「抱きしめてくれた」
「したくなったから」
それ以外に理由はない。いらなかった。
腕の中で身をよじる蒼宙を強くかき抱いて、 頬に口づけた。
「物足りない」
「ここは学校だ!」
そう言いつつ人のいない屋上で抱きしめてしまっているのは事実なのだが。
「今日は記念日だね! 好きって言葉もらえたし」
「……大したことじゃないだろ」
「大したことだよ」
不満げに唇をとがらせるから、塞いだ。
食後なんて、知ったことじゃない。
「学校だよ?」
「お前が可愛いすぎるんだよ」
「ふふっ。今度は僕の家においでよ。お菓子でも作ろう。ホットケーキなら、簡単だよ」
「楽しみにしておく」
「日曜日はお昼も一緒に食べよ。ファーストフードがいいな」
「わかった」
可愛いわがままなら、なんでも聞いてやろう。
蒼宙の髪を撫でながら、知らず笑みを浮かべていた。
日曜日、地下鉄の駅で待ち合わせた二人は、
手を繋いで電車に乗った。
少年同士なので妙な勘ぐりはされないだろう。青の考えは甘かったようで
奇異な視線が、突き刺さってしまっていた。
「あおが、格好いいから皆が見てくるね」
「お前と一緒にいるからだよ」
「相乗効果で僕も目立ってるの」
「……そうか」
隅っこに座っていても視線を感じる。
大人の女性や同年代の少女が、主に噂話をしている。
(うぜえな。早く電車を降りたい)
うきうきしている蒼宙には、青の心中は
分からなかったかもしれない。
駅に降り立つと蒼宙が、青の腕に腕をからませてきた。
電車の中では抑えていたらしい。
気恥ずかしかったが、表にでてなくてよかった。
青はされるがままになることにした。
「えへへ」
「顔に全部出てるから、口にせんでいい」
「もう、気持ちの表現は大切でしょ」
唇をとがらせた。
やばい。こいつの口を塞いでやりたい。
身のうちに起こった衝動を
青はどうにか堪えて、薄く笑った。
「デート、デート!」
「連呼すんな。恥ずかしい!」
「ふふっ。僕ん家はこっちだよ」
手を繋いで歩いていく。
駅にほど近い高層マンション。
正面玄関から入ると、エントランスと
管理人室があった。
エレベーター内でも二人は手を繋ぎっぱなしである。
「青、今日はOKしてくれてありがとう」
「礼を言いたいのは、こっちだよ」
「招待してくれてありがとう、蒼宙」
続きを耳元でささやいたら、蒼宙は、耳で真っ赤にした。
「おおげさだな? 俺とどうにかなりたいんじゃないのか」
「……改まって言うから」
エレベーターを降りて廊下を歩く。
扉の前で、蒼宙が、青の手をぎゅっと握った。
「どうした? 」
「今日は二人きりなの。家族は誰もいないよ」
開けられた扉の中に吸い込まれていく。
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