10 / 70

第10話 小悪魔のおうちへの招待-2

蒼宙は、自分の部屋に誘った。 二人でソファに座ってしばらくすると蒼宙の母が、紅茶とケーキを持ってくる。 「ありがと」 蒼宙は、テーブルに置かれた陶器のティーセットを目を輝かせて見つめていた。 蒼宙の母は部屋の扉を閉めた。 本棚とベッド、対面式のソファとテーブルが置かれた部屋で秒針の音がリアルに響いている。 (馬鹿か……俺は) 妙に意識してしまい、柄に似合わず鼓動が早く鳴った。 正面に座った蒼宙が口元を緩めてこちらを見つめていた。 「……いちごショート、食べていいか?」 「どうぞ! 紅茶もケーキに合う種類だよ」 蒼宙はティーポットから、カップに紅茶を注ぐ。 「あお、忙しいのにごめんね。会えて本当にうれしいよ」 「嫌だったら時間作ってまで来るか」 頬にクリームをつけてケーキを食べる姿に苦笑いする。 育ちはいいはずなのだが、青の目の前でリラックスしているということならうれしい。 「……っ、反則だよ」 蒼宙は青に頬を舐められていちごより顔を赤くした。 こんなにいじってしまうのは、かわいくてどうしようもないからだ。 抱きしめた腕の中、恥ずかしそうに身じろぐ。 背中を叩く拳は、腕の力を強くして黙らせた。 「……あお」 「どうした?」 「少しでも嫌な気持ちがあるんなら、さっさと離れて。 こんなことされたら……もう諦めなれなくなる」 泣きそうな声だと思った。 「……蒼宙は、素直で可愛いから邪険にできない。それだけじゃ駄目か」 「ずるいよ」 鼻をすすりながら、抱きつく。 「受験、頑張ろうな」 行く高校は違っても、一緒に勉強したりはできる。 「うん」 蒼宙の頭が揺れた。撫でたら、顔を上げて眩しいほどの笑顔を向けてきた。 「お昼は無理だったけど、夕食は一緒できる?」 「大丈夫。家族には伝えてきたから」 蒼宙から離れ、自分の座っていたソファに戻る。 「あの藤城青を独り占め。僕は最高に幸せ者だ」 しみじみと言われ、おかしくなる。 (あの藤城青とかどういう意味だよ) 「あおって本当に洗練されてるね。さすが」 青が、紅茶を飲みケーキを口に運ぶ仕草を蒼宙が見ていた。 「俺を見てないでお前も食べろよ」 見ている時間が長すぎてさすがに舌打ちした。 バツが悪そうに視線を逸らす姿に含み笑いする。 「ご、ごめん!」 顔を赤くした蒼宙は、慌てた様子だった。 「……紅茶も冷めるしな」 誤魔化すように口にした青にきょとんとした蒼宙は、「そうだね」と笑いカップを傾ける。 「ゆっくり大人になろうよ。あおは、しっかりしすぎてるからさ」 天真爛漫な蒼宙に、こういう時間を過ごすのも悪くないと感じていた。 「……別に俺、そんなに大人じゃないけどな」 ボソッと言う。 「うんうん。知ってるよ! 僕と同じピュアな中学生だもんね」 「イケナイこともしたが」 「気持ちがないとできないよね?」 言わされる。 息を飲んだ。時が止まった気がして苦しくなる。 「……ああ」 触れたくもない相手なら、触れることも許さない。 「僕はあおが大好きだよ」 さらり、口にする小柄な恋人。 「……俺も蒼宙と同じ気持ちだ」 「よかった」 ティータイムが終わり、数時間後、青は蒼宙の家族と夕食を共にした。 穏やかで気さくな人柄の大学教授と、蒼宙とよく似た風貌をした夫人。 父親と二人で食卓を囲む青には、両親と一緒にいられていることが、少しだけ羨ましかった。

ともだちにシェアしよう!