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第10話 小悪魔のおうちへの招待-2
蒼宙は、自分の部屋に誘った。
二人でソファに座ってしばらくすると蒼宙の母が、紅茶とケーキを持ってくる。
「ありがと」
蒼宙は、テーブルに置かれた陶器のティーセットを目を輝かせて見つめていた。
蒼宙の母は部屋の扉を閉めた。
本棚とベッド、対面式のソファとテーブルが置かれた部屋で秒針の音がリアルに響いている。
(馬鹿か……俺は)
妙に意識してしまい、柄に似合わず鼓動が早く鳴った。
正面に座った蒼宙が口元を緩めてこちらを見つめていた。
「……いちごショート、食べていいか?」
「どうぞ! 紅茶もケーキに合う種類だよ」
蒼宙はティーポットから、カップに紅茶を注ぐ。
「あお、忙しいのにごめんね。会えて本当にうれしいよ」
「嫌だったら時間作ってまで来るか」
頬にクリームをつけてケーキを食べる姿に苦笑いする。
育ちはいいはずなのだが、青の目の前でリラックスしているということならうれしい。
「……っ、反則だよ」
蒼宙は青に頬を舐められていちごより顔を赤くした。
こんなにいじってしまうのは、かわいくてどうしようもないからだ。
抱きしめた腕の中、恥ずかしそうに身じろぐ。
背中を叩く拳は、腕の力を強くして黙らせた。
「……あお」
「どうした?」
「少しでも嫌な気持ちがあるんなら、さっさと離れて。
こんなことされたら……もう諦めなれなくなる」
泣きそうな声だと思った。
「……蒼宙は、素直で可愛いから邪険にできない。それだけじゃ駄目か」
「ずるいよ」
鼻をすすりながら、抱きつく。
「受験、頑張ろうな」
行く高校は違っても、一緒に勉強したりはできる。
「うん」
蒼宙の頭が揺れた。撫でたら、顔を上げて眩しいほどの笑顔を向けてきた。
「お昼は無理だったけど、夕食は一緒できる?」
「大丈夫。家族には伝えてきたから」
蒼宙から離れ、自分の座っていたソファに戻る。
「あの藤城青を独り占め。僕は最高に幸せ者だ」
しみじみと言われ、おかしくなる。
(あの藤城青とかどういう意味だよ)
「あおって本当に洗練されてるね。さすが」
青が、紅茶を飲みケーキを口に運ぶ仕草を蒼宙が見ていた。
「俺を見てないでお前も食べろよ」
見ている時間が長すぎてさすがに舌打ちした。
バツが悪そうに視線を逸らす姿に含み笑いする。
「ご、ごめん!」
顔を赤くした蒼宙は、慌てた様子だった。
「……紅茶も冷めるしな」
誤魔化すように口にした青にきょとんとした蒼宙は、「そうだね」と笑いカップを傾ける。
「ゆっくり大人になろうよ。あおは、しっかりしすぎてるからさ」
天真爛漫な蒼宙に、こういう時間を過ごすのも悪くないと感じていた。
「……別に俺、そんなに大人じゃないけどな」
ボソッと言う。
「うんうん。知ってるよ! 僕と同じピュアな中学生だもんね」
「イケナイこともしたが」
「気持ちがないとできないよね?」
言わされる。
息を飲んだ。時が止まった気がして苦しくなる。
「……ああ」
触れたくもない相手なら、触れることも許さない。
「僕はあおが大好きだよ」
さらり、口にする小柄な恋人。
「……俺も蒼宙と同じ気持ちだ」
「よかった」
ティータイムが終わり、数時間後、青は蒼宙の家族と夕食を共にした。
穏やかで気さくな人柄の大学教授と、蒼宙とよく似た風貌をした夫人。
父親と二人で食卓を囲む青には、両親と一緒にいられていることが、少しだけ羨ましかった。
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