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第11話 想いの再認識
週末、姉一家が、藤城家を訪れた。見た目は優しく善良そうな義理の兄。青より17歳年上で、親子近くの年齢差がある彼は藤城総合病気で内科医をしていた。中身は医者のイメージ通りの変人だ。奇妙な童顔で眼鏡をかけている。
「青と会うの久しぶりだね。相変わらずかわいいね」
ぐりぐりと頭頂部を撫で回されるが、必死で我慢する。顔には出さないが、小さくため息が漏れていた。
「陽は初対面から青を気にいってくれてたわねえ」
のんびりした口調で言う姉は、甥の砌の手を引いてさっさと廊下を進んでいく。通り際、くすくすと口元で笑ったのも見逃さない青である。
「青、僕たちも手を繋ごっか」
大きな手が、重ねられそうになり、ささっと避けた。
「俺はもう小一のガキじゃないんですよ」
姉の彼氏として紹介されたのは7年前。初対面から馴れ馴れしかった。父も受け入れていたから、認めるしかなかったがテーマパークに連れて行かれたり散々振り回されたのもよく覚えている。
「そうだね。今は男になる一歩手前って感じで危ういもんな。付き合ってる子もいるんだろ」
(陰でおしゃべりな姉が伝えたのだろう。性別で偏見持たないし、年の離れた弟の恋愛事情が気になって仕方がないだけだ。面白がっているように感じるのは俺がひねくれているのか?)
「……仲良くしてる相手ならいます」
「今度、紹介してよ」
「嫌です」
何となく会わせたくなかった。
蒼宙を気に入らない人間がいるとは思えない。逆だ。
(父には紹介するつもりではいるが……姉達には特に会わせなくていいのではないか)
「別にからかっているわけじゃないよ。初カレは青に泣かされてないかとか心配なんだよ」
「余計なお世話です」
その表現は間違いではなかった。
義兄と共にリビングにつくと姉と甥がソファでくつろいでいた。
「……お姉さま」
「青、どうしたの。随分疲れてるみたいだけど」
「青にぃ、だいじょうぶ?」
とてとてと歩いてきた砌。青は腰を屈めて視線を合わせた。
「問題ない。砌は幼稚園楽しいか?」
「たのしいよー」
声を弾ませる甥。
幼児というのは分かりやすく感情を表に出す。
青が幼児の頃よりずっと素直な砌は環境ゆえだろう。
「青、高校は公立に行くんだっけ?」
「T大を目指せる所に行くつもりだ」
ティーカップを置いた姉が、青に視線を向けてきた。
「あなたの恋愛事情に口を出しすれば煙たがられるのもわかってるわ」
「……うん」
「精一杯大事にしてあげてね。好きになってくれた相手なんだから」
「ああ」
姉はそれで話を終えた。
父が帰宅し、一緒に夕食を共にしたあと姉一家……葛井家の三人は帰って行った。
父と二人きりになったダイニングルームで、青は意を決して口を開いた。
「付き合ってる相手がいる。性別は同じ」
「へえ。いいんじゃない」
「勉強もしっかりするから、交際を認めてくれるかな」
「やけに素直だね。そんなの当たり前じゃないか」
「今度、父さんがいる時に連れて来るよ」
「楽しみにしてる」
姉同様に、父も受け入れてくれるのは分かっていた。
「受験のその先も一緒にいられるといいね」
やはり姉と同じ忠告なのか。
期間限定だから酔狂で付き合っているわけじゃない。気まぐれに遊んでなんかいない。
蒼宙の無垢さやかわいらしさにやられたんだ。
「……まだ付き合い始めたばかりで分からないですけどね」
父は目元をゆるめ頷いた。
部屋に戻った青は、一心不乱にピアノを奏でた。時折、頭に浮かぶのは蒼宙の顔。
「別に戻らなくていいよな」
独りごちた。
大好きと言ってくれた蒼宙を大切にしていきたい。
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