24 / 70
第24話 雨の季節、蒼宙の家で勉強会-2(✱)
「テストじゃなくても毎日勉強はしてるよね。
出そうな所を重点的に押さえるって感じ」
教科書を読み、ノートに取る。
蒼宙は、眠気対策に紅茶を飲みながら勉強に取り組んでいた。
「甘そうだな」
「チャイだから甘くないよ。飲んでみる?」
差し出してきたカップを口に運ぶ。
「間接キスだ」
頬を染める蒼宙にため息をつく。
蒼宙の部屋にいて二人きりなので目撃される心配はない。
「甘くて刺激的だな」
ぷい、と顔を背ける。
(同じ飲み口から飲んだとは限らないじゃないか……
いや、でもさっき蒼宙の唇が触れたんだ)
集中力が途切れそうな所で、部屋にある電話が鳴った。
青と同様、蒼宙も部屋に子機を置いている。
「はーい。すぐいきまーす」
蒼宙の様子に三時過ぎたのだと知る。
「これも持って行かなくちゃね」
トレイに2人分の飲み終えたカップを乗せ蒼宙が立ち上がる。
「俺が持つよ」
「あおはお客様でしょ。今日はおもてなしされてね」
「ありがとう」
「……っ」
腕を取り手のひらにキスを落とす。
蒼宙は目を泳がせながら先に歩き出した。
「気障(キザ)。絶対、さば読んでる」
「いや、お前の方が一ヶ月誕生日が早いだろ」
蒼宙は9月生まれなので10月生まれの青より一ヶ月誕生日が早い。
「乙女座だもん」
ちょこちょこと先を歩く。
ちょうどいい身長差に悪戯心が沸いてしまうがこらえた。
「誕生日まで付き合ってたらプレゼントやるよ」
「あと三ヶ月か。これから試練があるかもね」
ドアを開けてリビングに向かう。
蒼宙も意外と我が強く負けていない。
青の相手としてとても似合っている気もした。
「あら。持ってきてくれたのね。ありがと」
蒼宙はトレイを持って行き流しに置いた。
「青くんが持ってきてくれたお菓子をいただきましょう」
「やったあ」
うきうきとした様子の蒼宙。
長崎カステラが三人分の皿に載っている。
「あおが選んでくれたの?」
「昨日、藤城家の行きつけの店に買いに行ってきた」
「まあ」
今日は梅雨の晴れ間で気温も上がっているため、空調で調節されている。
青と蒼宙はリビングの同じソファに二人で座り向かいのソファに蒼宙の母が座った。
「ここのカステラ、私達もたまに食べるわ。
卵の味が濃厚で美味しいのよね」
「うん! 久しぶりに食べるから余計嬉しい」
偶然にもこの家でも食べられているお菓子だったようだ。
飲み物は青と蒼宙は牛乳が用意され、蒼宙の母はブラックコーヒーだ。
「ん。美味しい」
蒼宙は一足先にカステラを平らげた。
にんまりと口元に笑みを形作っている。
食事は丁寧を心がけている青は、一口一口味わいながら
ゆっくりとカステラを食べ終えた。
「蒼宙が両思いになれてよかったわ」
しみじみ口にされた。
「お昼ご飯の時はお勉強の前だし、不謹慎かなって。
今はゆっくり二人と話ができるわね」
「ママ、何を聞きたいの? どこまで進んだかは秘密だからね」
えっへんと胸を張る蒼宙をどつきたかったが、どうにか耐えた。
(阿呆か! 親に対して怪しまれること言うなよ)
「青くん、蒼宙は青くんの前でも同じ感じなの?」
「……大して変わらないです」
「楽しくてしょうがないんでしょうね。
初恋で両思いになれるなんて奇跡だもの」
「恋の女神が微笑み続けてくれたから」
「……うふふ」
「……両思いで付き合っていても、
その先は二人の努力次第だと思うんですよ」
極めて冷静な一言に、蒼宙の母は目を丸くする。
「蜜月も終わって倦怠期。倦怠期……って今くらいの時期だっけ?」
「……ああ」
蒼宙は面白がっている。
「蒼宙から聞いてはいると思うけど、二人の恋には
大賛成なの。そこは安心してね」
倦怠期というワードに、微妙な空気を感じたようだ。
蒼宙の母は、急に焦りだした。
「信頼してます」
「お互いに浮気はしないように」
メッ!と言われ、びくっとした。
「青は僕に夢中だから大丈夫だよ」
「てめぇ、調子に乗るなよ」
少し声のトーンを下げて蒼宙に答える。
「青くんは、意外とお口が悪いし、蒼宙には
こういう感じの子が合ってるかもね」
口が悪いと言われてしまったが、今更どうにもできない。
「青春時代は短いわ。
存分に楽しめばいいのよ」
「青い春……」
ぽわぽわしている蒼宙。
「……父にも釘を刺されているので心配しないでくださいね」
もし仮定の未来で二人の仲が進展したら、
蒼宙は、恥じらいながら話してしまいそうだ。
「そんな真っ赤な顔して言う子が、突っ走ったりしないわよね」
「え……」
べたべたと隣から頬に触れられる。青よりちいさな手だ。
大人相手に宣言するのに恥があったらしい。
「あお……もうしょうがないなあ」
「……改めてお昼ご飯も美味しかったです。
俺は母を幼い頃に亡くしているから少しうらやましいなとも思いました」
話題を変えてごまかす。
「いつでもまたいらっしゃい」
リビングでおやつを食べ少しの間再び蒼宙の部屋に戻った。
もくもくとシャープペンシルを動かす音だけが響く。
午後4時半、蒼宙の家の玄関ドアを開けた。
ドアの外から廊下に出ると蒼宙もついてきた。
「勉強、たくさんできたね。青と一緒に勉強したら無敵だ」
「大げさだな」
頬をちょん、ちょんと指で指し示され、うっ、となる。
(いや……ご褒美くれてやってもいいか)
「あお?」
蒼宙の腕を素早く引き寄せ、背中を抱きしめる。
ぺろり、唇を舌でなぞって口元をつり上げた。
「……青ってワルになりそう。あらゆる意味で」
(やり過ぎたか……)
「心臓の音が、やばい。もう……」
蒼宙は、背中を向けて玄関のドアを開けた。
隙間から顔を覗かせて
「バイバイ。僕をキュン死させた青」
エレベーターのボタンを押し素早く乗り込む。
実は、心臓の音が張り裂けんばかりなのは青も一緒だった。
「……恋の進展を報告してもらえて嬉しいのは確かよ。
タラシでプレイボーイになったってことでいいのね。
お姉様は、そう理解したわよ」
青は寝る間際、部屋で姉に今日の経緯を伝えた。
やっぱり恋は人を馬鹿にする。
(やってしまった……)
一生の不覚だ。
生涯姉に頭が上がらくなる予感がした。
ともだちにシェアしよう!