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第27話 一緒にお風呂......そして(✱✱)
結局、一階にある浴室(バスルーム)で青と蒼宙は混浴することになった。
客室や青の部屋の浴室よりいいだろうとは、青の判断だ。
「あお、洗い終わったー?」
「......ちょっと待て」
先に湯船(バスタブ)に浸かっている蒼宙が呼びかけてきた。
洗い場と湯船が離れているため、蒼宙の姿は確認できない。
シャンプー、リンス、トリートメント、身体を洗い、腰にタオルを巻きつけた。
エチケットもあるが、小学校低学年から一人で入浴しているため気恥ずかしさがあった。
すたすたと歩く。
蒼宙はこちらに背を向けている。
湯船に浸かってガラス扉の向こうを見ているようだ。
「温泉に来たみたい。あれって露天風呂?」
ちゃぽん。青が浸かると微かに湯が波打った。
「そうだ。あっちも入ってくればいい。俺はまずここに浸かる」
「あおの準備が遅くて待ってたんだよ。身体も時間かけて洗ったし」
くるりと蒼宙が振り向いた。
湯に使って頬を紅潮させている。
「待たせて悪い」
「ここ使わせてくれて青のお父様に感謝しなくちゃね」
「そうだな。ちゃんと距離を取って入れるし」
すすす、と蒼宙がにじり寄ってきた。
つま先同士が触れた気がする。
「そんなに気にしないでいいのに」
肩がぶつかった。湯が波打つ。
広い浴槽内で肌を寄せ合う。
湯気がもくもくと湧いている。
(蒼宙はただの同性じゃなくて)
背中合わせにくっつく。
「僕達、付き合い始めて半年が過ぎたね。
最初はどうなるかと思ったけど」
「どこから半年だ?」
「バレンタインでしょ」
あそこから計算されていた。
蒼宙は家から持参した『アヒル隊長』を湯船の中に浮かべていた。
どこか間抜け面(ズラ)のアヒル隊長は、愛嬌がある。
「どうなるんだろうな......」
「できるだけ長く続けばって思う。でも、分かんないよね」
「......蒼宙、こっちを向け」
嫌いじゃないのを承知で少し偉そうに命じた。
くるりと身体をこっちに向けた蒼宙は、
切なげで見ていられない。
「半年、恋人でいられたんだろう。あんまり先を考えて勝手に落ちるなよ」
気づけば背中に腕を回し抱きしめていた。
温まった肌同士が触れ合う。
蒼宙も青の背中に腕を回していた。
湯は大きく波打った。
「これくらいは平気だよね」
「ああ」
頭をかき抱き髪を撫でる。
引き寄せられるように口づけた。
「キスって魔法みたい」
「魔法だ」
嘯いて、戯れる。
三回目のキスの後、二人は露天風呂に向かった。
湯に浸かり星を見上げる。
それから、二回目のキスは
息が弾む背伸びしたもの。
「ん......好き......大好き」
うっとりと呟く蒼宙を強く抱きしめた。
青は自分の部屋、蒼宙は客室へと向かう途中で蒼宙は青のパジャマの裾を掴んだ。
「あれだけキスしたのにまだ足りないのか」
「おやすみのキスして。おでこに」
額を突き出してくるから、クスッと笑った。
額に唇をかすめ耳元で囁く。
「おやすみ......蒼宙」
「一緒じゃなきゃ眠れない......」
調子に乗って甘えてきた。
「内緒な」
青は蒼宙と共に客室の扉を開く。
ふわり、とした羽根布団に二人でダイブし、
抱擁した。
おまじないみたいに指先を繋ぎ眠りにつく。
「......ずっと一緒は無理なの知ってる。でも今は僕だけのあおだよね」
眠りについた青の唇に、小さな口づけが降り注ぐ。頬にひとしずくの涙も落ちたけれど、
青が、目を覚ますことはなかった。
「何だか名残惜しいけど帰るね」
「帰ったら電話すればいいし、
夏休みもまた会う機会あるだろ」
しょんぼりどした様子で荷物を抱きしめる蒼宙に、苦笑いする。
二日目も昼食、お茶の時間を共に過ごし、一日以上一緒にいた。
蒼宙からキスや抱擁を求める前に青から、していた。蒼宙から来る時もあったが、それは......。
(寝てる時にキスしてきたな。しかも泣いてた)
うっすら気づいていたが気づかぬフリをした。
好きになってくれたのは、蒼宙からだった。
(心配するな。俺は誰よりもいまお前に夢中だよ)
「ん。たくさんありがとう。おじ様にもよく伝えといてね」
手を振る蒼宙に手を振って
お泊まり会は幕を閉じた。
「お前の誕生日、一週間後だよな。何が欲しい?」
秋の虫が鳴き始めた9月の終わり。
蒼宙の方が少し誕生日が早かったことを
思い出していた。
「身長かな。あおばっかりずるいよね......二月から3センチは伸びてるでしょ」
「伸びるスピードは落ちてるぞ」
「......小学校6年の頃は150センチ台だったじゃない。僕なんてゆっくりしか成長しないのに」
このまま平坦な会話をしていても意味がない。
「......で、何が欲しいんだ。身長以外で」
顎をつまんで間近で見つめてやる。
「......あお」
「は?」
意味が分からなかった。
今日は蒼宙のマンションに遊びに来ていた。
両親揃って不在だから二人きりだよと、いつかのあの日のように蒼宙はささやいた。
(深い意味はない)
さっきまでチェスは青の三戦三勝。負け越した蒼宙はかわいそうなほど悔しがった。
それを見て哀れに思った青は、
好きなようにキスするのを許した。
罰ゲームどころかご褒美に味をしめた蒼宙は、青に抱きついてきた。
頬と額、唇に落ちてきたキスに、柄にもなくうろたえた青だ。
「デートしてほしい。ネズミと夢の国でもキティちゃんのいるとこでも」
「......わかった。ネズミと夢の国に行こう」
「待ち合わせて電車に乗ろうね。二人で都外に出るの初めてでうきうきだな」
腕をつかんできらきらとした瞳で見つめてくる。
抗いざる衝動にまかせ肩を抱いた。
顎をつかみ影を重ねる。
しっかり目を閉じた蒼宙は頬を紅潮させていた。
「ん......」
微かに開いた唇をふさぐ。
長めに口づけて離す。
欲しい......の意味をわずかに考えて、
怖くなった。
大人になるのは、自分が自分では
なくなることなのかもしれない。
その日の夜、なかなか眠れず浅い眠りの中で蒼宙の夢を見た。
少し大人になった蒼宙は、向こうから深いキスをしてきては、青を惑わせる。
「蒼宙」
小さく唇が動き名前を口に出していた。
まぶたの奥に浮かんでは消える残像は、確実に青を変えてしまった。
うるさく鳴る心臓。
手のひらを宙に向けた後、シーツに沈み込む。
上気した頬、荒く紡ぎ出される息。
目も潤んで人が見たら危うい色香を醸し出していた。
翌朝から青は蒼宙を意識的に避け始めた。
汚れた自分を知られるのが怖かったのだ。
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