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第36話 卒業、そして旅行へ(※※※)

傷しか与えなかったものを愛で上塗りする。 軽いリップノイズを響かせて、 治療を終える。 欲深い恋人が鼻声でつぶやいてきた。 「またしたくなった。駄目?」 「へぇ。足りないんだ」 「18歳になってるし、許されるよね」 「家族の手前、しなかったわけじゃない。 こうなる時がきたってだけ」 蒼宙を四つん這いにさせ後ろから分け入った。 さらに狭く、圧迫感があったが 違う感覚にぞくりと身が震えた。 「あん……っ!」 後ろから手を伸ばし、蒼宙の屹立した物を擦りあげる。 声が甘くなっていく。 「ひっ……ぅ」 中に指を入れたらひくついた動きをした。 「もうイった? 早いな」 ぐい、ど指を折り曲げる。 腰の動きを早めた。 二度目は一度目よりも、容赦がなかった。 姿勢を低くし、顔を寄せる。 舌を絡め、吸う。 お互いを暴くようなキスをする。 顎を伝う滴や身体から溢れる滴がベッドを汚している。 青は、ゴムを咥えて自身に装着する。 何個か、取り出しといてよかった。 今度からは自分が用意しよう。 「今度はおまえが俺の上に乗ってみろ」 「……わっ」 返事を待たず腕を引く。 腰に跨ぐ格好をさせた。 「今、触っちゃだめ」 「またイっちゃいそう?」 身を起こし蒼宙に触れていない方の手で頭を撫でた。 下から貫く。 「っ……ドS、俺様、ドえろ」 「そんな俺がいいんだよな?」 「はぅ……っ」 がくがく揺さぶれば頭が揺れた。 答えをくれているようにも見えた。 「キスがしたいよ」 「じゃあお前から来い」 蒼宙が、身体を傾けて青の顔に影を重ねた。 「んっ」 不器用なキスに、感じさせられて 悔しくなる。だから、鋭く突き上げた。 「あっ……激しすぎ……」 「気持ちが伝わるだろ」 明かりの下で邪(よこしま)な笑みを浮かべているのが見えるだろう。 「青はもう少年なんかじゃない。性質(たち)の悪い男だ」 「あの頃に戻ってほしいんだ? もう二度とまぐわったりできなくなるけど」 動きを止めたら子犬のように鳴く。 「今の青がいい……だからもっと強くして。 僕の中でイってよ」 「……ほしい?」 「ほしい」 「思いきりくれてやるよ。後で後悔するなよ」 頷く頭をきつく抱きしめて、 淫らなキスをする。 子供のままごとではない本気のキス。 身体を起こして正面から抱き合う。 腰を回し、中のうねりを確かめる。 耳朶を食み、乳首をこすった。 「あ、あ、あ……い、い……いく」 チュッと固くなった尖りに口づける。 奥がしまった。もう果てはすぐそこだ。 「先にいくなよ。寂しいだろ」 わななく中をもう一度突く。 何度かに分けて吐き出す。 背中に抱きついて、一緒にベッドに沈んだ。 夜明けの光が部屋を満たす。 もぞもぞとシーツの中から顔を出した蒼宙の髪を撫でた。 「青、両親が帰るのは夕方なんだ。それまでいていいよ」 苦笑し、髪を撫でる。 「欲しがりだな。今度は俺の家に来るか?」 頬を赤らめた蒼宙が頷いた。 一ヶ月前のあの日、青と蒼宙は身体ごと結ばれた。 あの日、結ばれて以来一人で耽ることはなくなった。 やはり欲求不満だったのだろう。 電話の最中、声で抱いてと言われた時は、 あの時を思い出して攻めた。 もちろん、言葉で煽っただけで、衣服を乱してはいない。 その代わり、喫煙を覚えてしまった。 煙草で誤魔化すことで、やり過ごすというか。 (要するに、寂しいってことか?) 家政婦の操子には呆気なくバレたが、何も言われはしなかった。 (心配かけたのは申し訳ない) ちらほら、この数ヶ月のことを思い出していた。 受検の日程も全て終り無事に勝ち取った大学への道。 今日は、青と蒼宙の高校生活最後の日だ。 「卒業か。色々あったよね」 「そうだな」 校門の前、一眼レフのカメラで記念撮影をすることになった。 「青も一緒に撮ろうよ。誰かに頼めば大丈夫だから」 「写真は嫌いなんだよ。プリントシールなら、まだ許容できるけど。 俺がお前を撮ってやるから」 「僕だけ? つまんないなあ」 不平を漏らす蒼宙のわがままを聞いてやりたいところだが譲れなかった。 「青、蒼宙くん、ここにいたの? 車来てるから一緒に帰ろうか」 「おじ様、いい所に。青と二人の写真撮ってくれませんか」 「もちろん!」 「チッ」 聞こえよがしに舌打ちする。 「……蒼宙くん、青と付き合っていくの大変だよね。 四年も一緒にいるなんて本当にすごいよ」 「皆さんが応援してくれましたしね。 超ド級にかっこいいけど、可愛げもあって ……やっぱり俺様で」 青は、何とか無表情に徹した。 「さっさと撮ろう! 蒼宙くん、隣に怖い顔がいても気力で笑うんだよ」 ため息が漏れる。 今日は卒業式で保護者も来ていたのだった。 蒼宙の所なんて両親が揃って出席している。 「大丈夫だ」 人通りもまばらになっていて邪魔になったり見られてしまう可能性はないだろう。 青は、蒼宙の肩を抱く。 (蒼宙の制服姿、凛々しくて好きだったな。 中学の時も、高校の時のも) はにかんで笑う天使の蒼宙と、 見事な王子様スマイルの写真が撮れた。 「……さすが青、見事な演技力」 「演技じゃない」 父が、感嘆するのでムカっときた。 「二人とも卒業おめでとう」 柔和な微笑みの父・隆と共に双葉が待つ駐車場に向かう。 車に乗り込んだ途端、助手席の父が太っ腹な話を持ち出し、困惑した。 「今、何て言った……いやおっしゃいました?」 「うん。それでね。来月から大学も別々で離れちゃうだろう。 思い出に二人で卒業旅行でも行ってきたら。 神戸にある藤城家所有の別荘とか。それともホテル予約する?」 蒼宙は、赤面し俯く。 そこまでお膳立てされるのも恥ずかしくてたまらないのだろう。 (まだだと思ってるなら、そこで?とか考えてるのか。それなら……) 「お父様、本当にありがとうございます。 思い出作りに行ってきます。 海や神戸の街が見渡せる部屋を探しといてください」 「了解したよ」 まぶたの下を朱色に染め、ちらちら横から見てくる蒼宙の手を握りしめた。 蒼宙のマンションに着くと、少し待っていてもらうよう頼んで青も一緒に降りた。 マンションの扉の前で青はぽつり、話し出した。 「何か、父が余計な気を回してるみたいだけど、  行くも行かないも蒼宙の自由だからな」 「ちょっと気になることもあるんだけど、考えすぎかな。  僕は青がいいなら是非行きたいよ。せっかくだし」  蒼宙の懸念はまさか……。  聡いから青と同じ想像をしたのか。 「今夜、話してみるから。  それでまた連絡する」 「うん。了解!」  背伸びして頬にキスをくれた蒼宙は、文句なしに可愛らしく  絶対に傷つけたくないと思った。  

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