42 / 71

第40話 そして愛は燃え上がる(***)

バーカウンターには、他にも客はいたが二人の関係に気づくものはいないだろう。 ひどく綺麗な青年同士が語らう光景に人目を引いているが、 二人とも気づかない。 「美味しいね。オレンジジュース好きなんだよね」 「そういうのは子供だな」 「お酒もいっぱいだけ付き合ったでしょ。  青みたいに強くないんだもの。なんでそんなに強いの」 「また疑われているが飲み始めたのは、二十歳になってからだ。  強いのは遺伝だろう」 「そうだね。僕の家、強い人いないし。  実はお父さんの方が飲めないくらいなんだよ」  青は自分の瞳の色と同じ青い色のカクテルで唇を湿らせた。  既に四杯目だ。  蒼宙はカルーアミルクを一杯飲んだだけで頬を火照らせ  後は水やノンアルカクテルを飲んでいる。  体調は悪くなっていないようだが、既に酔いが回っていた。 「お酒飲んでると役に立たなくなるって言うし、  今日はもう部屋で寝るだけだよね。  強くても、そういうのは無理でしょー」  ケラケラ笑う蒼宙。  青は表情や言動に変化もなく普段通りだ。  涼しい顔でグラスを傾け、一息つく。 「蒼宙、せっかく横浜まで来たんだぞ。  想い出も作らずに東京まで帰るのか」 「作ったじゃん……ええとベイブリッジで夕陽を見たり中華街で小籠包(ショウロンポウ)食べてほっぺた落ちた」  想い出を語る蒼宙に、青は口元をつり上げる。 「健全だな。大人の二人には甘くて刺激的な夜の想い出が足りないじゃないか」 「っ……殺し文句が上手になったあ」  酔っ払う蒼宙は、にんまりと笑っている。  どうにかしてやりたくなるくらいかわいすぎる。 「こんなのくらいで俺が使えなくなるわけないだろ。  まあ無理強いするつもりはないけどな」  耳元でささやく。  肩まで抱いてやれば波打たせて反応する。  ついでに手のひらを包み込んで指で表面を撫でてやった。 「っ……、ちょっとこんなところで」 「まだ何もしてないだろ。手を握られて感じたのか?」  くすっと笑う。  とどめに手のひらにキスを落とした。  ただのキスではなく、微かな刻印を残す。  バーの落とされた照明に蒼宙の真っ赤になった頬が映る。 「それ、酒のせいじゃないよな」 「青が誘惑するからだよ」  ろれつの回らない唇。  ぐっ、と腕を引いてエレベーターに乗った。  ふらつく蒼宙の身体を引き寄せる。  エレベーターが停まり、二人の泊まる部屋の階に着いた。 「っ……え、青?」  ふわり、横抱きにする。  扉をカードキーで開けて室内に入った。  ベッドの上に蒼宙を下ろすと素早く組み敷いて見下ろした。 「さっきお風呂でした時すごく胸いっぱいになったなあ……。  なんでそんなにかっこいいんだろう」 「お前にそう言われると胸に響くな。  もっとたっぷりサービスしてやらなくちゃ」  蒼宙の顔を見ていたいが照明は  ベッドの上にあるリモコンで部屋の照明を消した。  窓から見える夜景と月の光だけが、明かりだ。 「獣(けだもの)は褒め言葉だぞ。  お前を好きにできるってことだから」  都合のいい自己解釈する 「うわーオレサマモードの時は自信過剰だあ」 「うるさいな……」 「っ……ふあ」  荒々しく唇を塞ぐ。  舌を小刻みに震わせて絡ませる。  顎を伝う滴がシーツに落ちる。  蒼宙の下半身に手を伸ばし、撫でた後揉みしだいた。 「……っあ、刺激が強いよう」 「少し硬くなってきたな」  唇で噛んでやれば、少し大きくなった。  青の剛直は既に漲っていて熱を解放したがっている。  衣服の上からお互いのソレに触れたら、爆発しそうだった。  痛いほど身がしびれる。  好きでもなければ、感じることもない。  ほしいだなんて思うはずもない。  蒼自身に直接触れたら、熱くて溶け出しそうだった。  先走りの液体も指に絡め啜る。  考えたくないが、性別が違う場合も応用だと思った。  自分と同じ構造をしている身体だが、蒼宙は小柄で  ほっそりとしている。  163センチの蒼宙と187センチを超えている青は、  愛する方がどちらかだなんて決まっているのだ。  触りたかったら触ってもいい。むしろ嬉しい。  けれど愛しい存在にそれ以上のことをさせる気にはならなかった。 「っ……あ、あ」  ぐちゅ、ぐちゅと音が立つ。  スラックスを引き下ろす。  次第に大きくなっていくモノを指で愛しながら  己も高まるのを感じていた。 「だ、だめ……離して」  酔いが醒めたのかはっきりとした声で蒼宙が伝える。  青が手を離すと白いものが流れ落ちる。 「まだ俺がイッてないから」 「うん。来て」 両手をこちらに伸ばす愛らしさ。  枕の下に忍ばせておいたゴムを身につける。 (0.01の薄さでも、ちゃんと合うサイズはある)  両脚を開かせて腰を近づけた。  お互い、立ち上がったソレが、一瞬触れる。  一気に腰を落とした。  狭い蜜路を突き進む。  容赦なくたたき込む度、蒼宙は鳴いた。  青好みの甘い声。自分とは違う低くはない声。  シーツに力なく腕を投げ出し、つま先まで弛緩させ  蒼宙は果てを迎えた。  青は薄い膜越しに熱を吐き出した。  既に達している蒼宙の中へ何度も。  想いの全部を届けるように、出し尽くすと  蒼宙の隣に横たわった。  心地よい疲労感に包まれる。  汗ばんだ肌を胸の中に閉じ込めて瞳を閉じた。  朝になったら、もう一度愛し合おうと決めて。  寝起きの煙草は、普段より美味い。  窓辺に立ち灰皿に吸い殻を落としながら笑みを浮かべる。  喚起のために空調は回している。 「……うわあ、様になるなあ。色っぽすぎ」 「そうか?」  振り返り蒼宙を見つめる。  今日の蒼宙は天使の度を超していた。  シーツの中でけだるげに身を起こし、あくびをかみ殺す。  瞼を擦る姿に、 「やめろ……傷つくだろ」  慌てて駆け寄り止めた。 「甘ったるい優しさ」 「……蒼宙、朝食の前に少し動かないか。今度はお前が上で」 「朝からお盛ん。いつもどれだけストレス溜まってんの」 「なら癒やしてくれよ」 「つけるの早ッ」  まだぼうっとしている蒼宙は青の早業に驚く。  かわいく皮肉る蒼宙を腰にまたがせて、下から突き上げた。 「あっ……ん」 「お前も動けよ。俺を感じさせろ」  優しく命じて腰を揺らす蒼宙を見上げる。 「せ、青……っ」  蒼宙のもどかしい動きとは比べものにならないくらい強く腰を振った。  傾ぐ身体を受け止めて舌を絡める。 「……もう、馬鹿ぁ」  憎まれ口も痛手にはならなかった。 「あのさ、触ってもいい?」 ひと眠りした後、蒼宙が言った。 上目遣いは反則だ。 「お前を汚したくない」 「汚されないって」 蒼宙に愛しさが込み上げる。 「御奉仕できるなんて夢みたいだよ」 ここまで愛されているのだと実感し、奉仕を受け入れた。 指先は意外に巧みで、萎え切ってなかった分身が 力を取り戻すのはあっという間だった。 頭を撫でてやる。 呆気なく達したのは、幸せだったから。

ともだちにシェアしよう!