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第42話 蒼宙を守りたい-2

たどり着いた公園には、一人の青年がブランコに乗っている。 何だか儚げで消えてしまいそうだ。 青は公園の前に路上駐車し、蒼宙の元へ向かった。 「ほら、腹減ってんだろ。食え」 コンビニの袋を差し出すと、蒼宙は驚いた顔をして受け取った。 「ありがとね。お腹すいてたからうれしい」 満面の笑みを浮かべているのが声でわかる。 頬に指で触れたらとても滑らかだった。 他の誰にも触れさせてはならない。 「蒼宙って、ムカつく位かわいいよな。だから落とされたんだけど」 さらり、髪を一筋とる。 撫でたらくすぐったそうだ。 コンビニの袋から野菜サンドを取り出し、無防備に食らいつく。 もぐもぐ咀嚼し飲みもので口を潤す。 「ありがと。とびきりの褒め言葉だよね。 魔性の男からの」 「取って食うぞ」 「残さず最後まで食べてね」 無邪気な小悪魔はふふふと笑う。 背中を抱きしめて、頬を寄せる。 「お前を守りたい」 「僕だって青を守りたいよ。 いざって時は頼もしく駆けつけてくれたり、今日だって忙しいのに逢いに来てくれた。 どれだけ力をくれてるかわかんないよ」 手を引いてベンチに座る。 今夜はやけに月明かりが眩しい。 夜空には無数の星も輝いてにぎやかだ。 蒼宙の手を握りしめる。 「蒼宙、一緒に暮らさないか」 「……え」 「俺が部屋を借りるから、そこで」 「……それなら少し狭いけど、僕の部屋に来て。 出て行きたくなったら、いつでも出ていいしね」 「そうだな。その時は俺も一人暮らしの部屋を見つけるよ」 先のことを今から考えなくていい。極めて軽く返した。 「一緒に住んでみて、今まで知らなかった部分が見えるはずだ。 俺の知らないお前もお前の知らない俺も」 「ちょっとドキドキだよね」 フッ、と笑う。 「……同棲するってことか?」 「んー。同居の時もあるかな」 意味を悟り苦笑する。 契りをかわす時は同棲で、そうじゃない時は同居。 「ちゃんと家賃は半分出すから」 「ありがたいことに、実家が持ってくれてるからそれはいい。 食費とかそういうのを半分こずつってことで」 「分かった」 「一緒に暮らして、答えを見つけよ。正しい終着点を」 「年明けてからにしようか。成人式が終わったあとくらい」 「そうだな」 「長年の付き合いあるし、両親は許してくれると思う。青のところも話しといてね」 「ああ」 「クリスマス、何する。コスプレ?」 「……サンタガールのコスプレしろ」 「そんな趣味あったんだね!いいよー」 「あ、雪だ! 今日はとっても綺麗だね」 星が空で輝き雪が落ちてくるなんて、 奇跡だった。 「お前がいるから、景色はずっと輝いて見える」 粉雪が蒼宙の手のひらに落ちる。その手に大きな手を重ねてあたためて空を見上げた。 「……うっ。なんかめまいがするし心臓が苦しい。くらくらする」 「寝不足か。今日は帰ったらよく寝るんだぞ」 「……よく寝てます。誰のせいだと……っ」 蒼宙の唇を塞ぐ。 よく眠れそうな刺激強めのキスをして、 蒼宙の暮らすマンションの部屋まで送った。 その日の夕食は帰宅する父を待ってとることにした。 藤城総合病院の飲長であり経営者。 あと何かしら肩書きがあったり御曹司と呼ばれる理由もある。 父と食後のお茶を飲みながら、リラックスした状態で話すことにした。 「というわけなんで、俺は蒼宙の家で暮らすことになりました。 たまには帰って来ますから。 必要以上の援助はいりません。 車も使わせてもらってる自体ありがたいことです」 「……えらい」 父が感心した。 頭を撫でたりされなくてよかった。 「いや、その……こんな事言うのあれだけど、 一緒に暮らすからって蒼宙くんに無体を強いたりしちゃ駄目だよ。 あくまで彼の気持ちを優先して」 「……一応言っておきますが、同棲と同居を兼ねた二人暮らしですからね。 そんなことばっかり考えてると思うなよ。 お互い大学もバイトもあるんだから、それどころじゃねえし」 きっぱり言ってやるとくすくす笑われた。 「あのね……伝えとくけど」 「はい?」 「藤城の人間は性欲が強い傾向にあるんだよね。 自覚はあるだろう?」 「……くっ」 思わず目を逸らしてしまった。 「それとはまた別で、外見とか中身も歳が取りづらいという遺伝があって」 「……意味がわからんこと言うなよ。頭が痛くなる」 父が言うと説得力はある。そのフェロモンで世代問わず虜にしている男だ。 再婚しないのが不思議なくらい。 「蒼宙くんといることで魔性っぷりが上がってるみたいだし、覚えちゃったしね」 「もう話も終わったから寝る。お疲れなんだから早く寝てください。 若ぶってもいい歳なんだから!」 「まだ現役です」 (何がだよ。ちょっと顔赤くしやがって) 「あともうひとつ。藤城家の人間は恋しい相手を命懸けで愛し尽くすんだ。 青は、多情ではない。だから運命は……」 父の呟きを青が聞くことはなかった。 リビングを出て部屋に戻ったら首筋まで熱い。 (クソ……ッ) 魔性だとか蒼宙に言われて、困惑していたがあいつのせいでもあるのか。 いかがわしく下劣極まりないことを言われ、不快指数が跳ね上がった。 感謝している気持ちとは裏腹に。 だが意識すると、自然と笑みも浮かぶ。 長い時間をかけなければ同棲の日は増やせるだろう。 ホテルやこの屋敷、車に連れ込まなくても自由に愛を育めるではないか。 悲観的に考える必要もない。 そもそも、恋愛というのはいつどうなるか分からないから楽しいのだ。 青が開き直っていたところで部屋の内線が鳴り響いた。 同じ屋敷内なので携帯はわざわざ使わない。 「なんですか」 「クリスマスパーティーしようよ。去年はハロウィンもクリスマスもしなかったじゃない」 「忙しいんだから、そんな茶番しなくていいんですよ。 20歳の誕生日も祝ってもらったし、もう今後そういう集まりはご遠慮したいです。 やるなら俺抜きで姉家族とやってください」 父は楽しげに言った。 「せっかくだから、篠塚家の方々も呼ぼう。 今回の二人暮らしの件でご挨拶しなくちゃ。 翠の所は今回不参加だから蒼宙くんのご家族と青と私でのパーティーだよ」 青はため息をついた。 「うちのバカ騒ぎに真っ当なご家族を巻き込むなよ。挨拶なら電話ですればいいだろ」 「お世話になるご挨拶する時にお誘いすればいいよね。明日の夜にでも電話するよ」 父はそう言って内線電話を切った。 二人きりのクリスマス計画は呆気なく崩れ去った。 クリスマスイブは、会えずクリスマス当日に蒼宙と両親を迎えることになった。 青は白いスーツとブルーのネクタイを身につけている。 額に青筋、眉が釣り上がるのをどうにか堪えた。 (蒼宙の正装が見られる。それで十分じゃないか) 訪問客の出迎えのため玄関ホールに向かった。

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