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第43話 クリスマスパーティー

玄関に立っていると、篠塚一家が訪れた。 屋敷に招待するのはこれまで何度かしているが、パーティー的なものに 招待するのは初めてで、若干緊張していた。 見世物のような自分の格好が呪わしい。 決して好きでしているわけではなかった。 『王子様はお姫様のパートナーだよ』 なんてそそのかされたから仕方がない。 両親の後ろから現れた蒼宙の姿に一瞬、見とれて時が止まった。 コスプレは叶わなかったから来年に持ち越すとして、 成人式の前にかわいいスーツ姿が見られるとは思わなかった。 見つめ合う二人を余所に大人たちが挨拶を始める。 「こんばんは。このたびはお招きいただきありがとうございます」  蒼宙の父が、頭を下げ父も頭を下げている。  隣では蒼宙の母も優しく微笑み会釈していた。 「藤城先生にお目にかかれて光栄です。ファンなんです」 「蒼宙くんのお母様がファンでいらしたなんて、光栄です」  蒼宙の容姿は彼女によく似ていると改めて思う。  女性だと可憐という雰囲気もある蒼宙。 「青、背が高いしスタイルいいから何でも着こなすよね。  で、でも……」  蒼宙が口ごもったので顎をつまんでやる。 「かっこよすぎだけどエロすぎる。何そのフェロモン」 「ん? それは褒め言葉でいいんだよな」  耳元でささやき凄みをきかせる。  たっぷり思い知らせてやろう。  表では清廉な微笑みを浮かべ蒼宙の手を優しく握っているようにしか見えない。  そんなやりとりをしながら、ホールに向かった。  リビングではなく大勢が集まる時に使われる部屋は、  テーブル席がいくつか用意されステージもある。 (毎回思うけど披露宴会場かよ。この部屋、苦手すぎる)  後ろには映像を映せるスクリーンがある。  そういえばこの間も父が映画を見ていた。 (ラブロマンスの洋画できわどいシーン満載のやつだった。  廊下を通っていたら、音が聞こえてきて耳を塞いだ) 「皆様、いらっしゃいませ」  家政婦である操子が上品に微笑み招待客をテーブル席に案内した。  彼女も今日は父が贈ったというドレスを纏っている。  露出度は低めのイブニングドレス。  首元には真珠(パール)のネックレスを身につけている。 (再婚するなら、この人だと思ってたけどそういう感じでもなかった。  15年も独りでいる父を支えてくれている恩人だ)  篠塚家は両親が用意されたテーブル席に座り蒼宙は青と共に別のテーブル席に着いた。 「……蒼宙は青くんと一緒がいいもんね」  ウィンクをする母に蒼宙は照れていた。 「青くん、しばらく見ない間にすっかり立派になったね。  うちにもまた遊びに来てよ。もちろん泊まりでいいからさ」 「いや、俺はまだ未熟者です。これから頑張っていかなければいけません。  遊びにも行かせて頂きますね」  蒼宙の父は、褒めながら家へ誘った。 (大人からすれば、まだ子供だから平気で言えるんだろうな。  分かってても直接的なことは言わないだろう。さすが大人だ。  藤城家の人間は、品があるように見えてまったくない)  蒼宙と二人でテーブル席に着いたが、さすがにこの場では  触れ合いは控えることに決めた。表面上では。 「このたびはお集まりいただきありがとうございます。  クリスマスパーティーを楽しんでいってくださいね!」  マイクを持った父が高らかに演説する。  頭を押さえていると隣から声がかかった。 「頭が痛いの? あっちのソファーで休む?」 「大丈夫だ。ちょっとくらっときただけ……お前に」  耳元でささやく。 「もうやめてよー」  結局、人目をはばからずいちゃいちゃしてしまった。  視線を感じてお互いに顔を逸らす。  蒼宙の両親と父がそろってテーブル席にやってきた。 「篠塚さん、このたびはうちの不肖の息子が愛息の  蒼宙くんと一緒に暮らしたいと申しておりまして」 「青くんなら、信頼してますし心配してませんよ。  むしろ蒼宙独りだと心配だったので頼もしいくらいです」 「そんなもったいない。ありがとうございます。  蒼宙くん、青のことよろしくね。  大人ぶってるけど、君よりお子様かもしれないから」  それは言われなくても承知の上だった。  セッ……の時は主導権は握るし普段もリードしている  つもりはある青だが、蒼宙の方が三枚くらい上手だとは感じている。 (言えるわけないが) 「篠塚さん、少し三人でお話ししましょう」  三人はそろってカウチソファーに向かった。  成人していても親の庇護の元にある身。  両親同士の話し合いもしなければならないだろう。  青は蒼宙と同じオレンジジュースをゆっくりと飲み干す。  並べられたローストチキン、スープに手をつけた後口を開いた。 「リビングでよかったのに今日は正装までしたしな。  二人暮らしのお披露目みたいなもんか」 「ちょっとおかしくなっちゃったけどね。  なんかの儀式みたいなんだもの」 「藤城家は普段から大げさなんだ」 「あはは。さすが大金持ち!」  蒼宙は楽しそうに笑っている。  何不自由どころかそれ以上の境遇で育てられたのは確かだった。 「ところでさっきおじさまが、演説してたステージって  スクリーンもあるんだね。映画が見られちゃうんだ」  目をきらきらさせ青の袖を掴んでいる。  反則だ。やめてほしい。 「観られるぞ。正月にでも一緒に観るか」 「是非! マイクもあるし大きめのスピーカーもあるよね。カラオケもできるんだ」 「……歌いたいなら歌っていいぞ。使い方は教えるから」 「青とデュエットじゃないとやだ。駄目かなあ?」  うるうるの目で訴えかけてくるが、耐えた。 「歌は不得意なんだ。それでもお前が言うなら、  一緒に歌ってやらないこともない。どんなご褒美をくれるんだ?」 「……何か今、目が光ったような。カラコンの下も光ってるでしょ」  気取りすぎだと思った。  蒼宙は顔を真っ赤にしている。 「どんなご褒美をくれるか聞いてもいいかな?  蒼宙は期待以上のものをくれるんだろうな」  含み笑いをする。 「青が上手だったら考えてもいいよ!  下手なんて謙遜だって教えてよ」  強気に返されたので腕を掴む。 「……ちょっと待っててくれ」  父や篠塚家の両親が座るソファを確認すると三人とも立ち上がり、  それぞれのテーブル席に戻っていた。 「お父様、ありがとうございます」 「真面目な話はすぐ終わって三人で歓談してたよ。  蒼宙くんは本当に素敵なおうちで育ったね」  父は、静かな微笑を讃えていた。 「よかった。後でまた話を聞かせてください」 「うん。青、締めの挨拶を頼むよ」 「挨拶してきます」  勇気を振り絞りステージでマイクを持つ。 「今日はクリスマスパーティーにお集まり頂きありがとうございました。  そろそろお開きにしたいと思います。  お気をつけてお帰りください」  会釈しステージを降りる。  篠塚家の二人は蒼宙を残し、藤城邸をあとにした。 「ふたりきりのイブもできなかったんでしょう。後は二人で過ごしなよ」  父の言葉に頷く。  蒼宙は両親にも藤城邸に泊まることを伝えていた。 マンションの部屋には帰らないことになっている。  

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