59 / 71
第49話 ビタースウィートラプソディー 2(※※※)
衣服が邪魔で仕方ない。
お互いに脱がせあい適当に床へと投げる。
普段は清潔で綺麗好きなふたりも愛し合う時は奔放だった。
藤城家にある浴室に比べれば、窮屈な浴室も密着度が得られて好きで幾度繋がっただろう。
ふらちな思い出に浸りながら、蒼宙を浴室の壁に押つけ、背後から侵入した。
浴室にゴムを備え付けていたから行為に及ぶのは簡単だった。
指を口内に入れたら、唾液まみれになるくらい啜ってくる。
声を殺したい蒼宙への温情。
「んん……っ」
「上手に咥えこんでるぞ」
「変態……っ」
ひくつく中はとても狭く繋がってるときつい時もあって、それが逆に快感だった。
確実に自分には征服欲というものがある。それを教えてくれた蒼宙。
「はぁ……僕だけのものでいて」
「ああ。俺らは離れられない」
何かしらの縁があるのではないか。
努力やそういうのもあったとしても7年も一緒に過ごしたのだ。決して短くはない。
「顔、見たい。僕の顔も見て」
ぐっ、ときた。
身体を反転させて正面から繋がる。
穿つ度甘い声でなきさけぶ。浴室は響くからリアルだ。
「あぁん……おっきい。すごいのでガンガン奥まで突いてよ」
まだ満たされてないのか貪欲な蒼宙が、求めてくる。
積極的になった彼は腰を振りながら青の大きな身体にしがみついていた。
期待に応えるように、楔で力強く打ちつけた。
荒い息が弾み変わってきたのを感じキスをした。
「あん……っ……」
「蒼宙……くっ」
薄膜越しに注ぎ込む熱をすべて受け止める前に蒼宙はのぼりつめた。
浴槽にたっぷりお湯を貯めて二人で浸かる。
意識を飛ばしてもすぐに眠ったりはせず、意外にも体力があるということか。
華奢でも同性だからか。
後ろから抱きしめて腰に腕を絡める。
肩に頬を寄せたら吐息が聞こえてきた。
「色気、半端ないな」
「青に言われてもねー」
髪を撫でて指ですく。
シャンプーの甘い香りがした。離れたら、同じ匂いでもなくなってしまう。
「八年は、長いと思う。僕は幸せに溺れすぎてたかもしれない。
青は極上の優しさで包んでくれた。愛がなきゃ意地悪もできないし」
「そんなの当たり前だろう」
「……短い付き合いじゃなくて長く付き合える人ってことだよね。
それなら八年じゃなくてずっと長く続く愛……離れない運命を手にしてね」
ぐ、と腕を引く。手を繋ぎ顔を見つめた。
「お前もだろ。馬鹿。人のことばっかり心配するなよ」
抱きつかれて、今度は青から吐息がもれた。
「……恋人じゃなくなっても友達になれる。たぶん、君が異性ならできないだろうな」
「……親友だ」
「ふふ」
悲しみなんて一ミリもない甘いだけのキスをして浴室での戯れを終えた。
ベッドの上、インターバルを置かずに繋がった。
正常位が一番気持ちよくて安心できる。
膝をついて貫く行為も好きだったけれど。
「……ふっ……あ……相当やばい顔になってる」
「快楽に歪む顔、マジで好きだった」
「ドSは治りそうにないね。相性合うドMの人にした方がいいよ」
「お前のような?」
「ひゃ……いきなり突いちゃやだ」
揺すって中を掻き回して、高ぶるままキス。
射精感が駆け上がるのもすぐで、呆気なく達してしまったら、今度こそ眠りに落ちた。
青は蒼宙を胸の下に引き寄せてきつく抱きしめた。
愛欲にふける行為よりもその後、お互いを慈しみ合う時間が
好きだったからこそ長く繋がることはしなかった。
肌の温もりに溶けたいと願い、手を繋いで眠った。
「青、おはよ」
清廉な微笑みを浮かべる蒼宙は、モーニングキスをくれた。
頬と額、首にまで。
「おはよう……蒼宙」
朝からドキッとしたのは秘密で、お返しに濃厚なキスをする。
朝からどうかとは一切思わずまぐわった。
どうせ勃っていたから沈めなければならなかった。
名前も呼ばす好きと伝え合いながらどうしようもないふたりは時間をやり過ごした。
積み重ねた時間のひとつずつを数えると途方もないようで、呆気なかった気もする。
ホワイトデーから二週間が過ぎた三月末。
青は蒼宙のマンションを出て新しい暮らしを始めた。
親友になったから連絡先は消してない。
当てにしてもいいか不明の約束もひとつ。
(新しい恋愛をしてなくて、寂しいまま耐えられなかったら……)
その先は、言わずとも知れたけれど。
モラル的に間違っている。
三ヶ月後、二人は久しぶりに再会した。
青は五年目の大学生活に忙殺され恋愛などは考えることもなく過ごしていた。
それは、蒼宙も同じようだった。
蒼宙が通う大学院の近くにあるカフェに呼ばれた青は変わらない元恋人の姿に微笑んだ。
「罪な男だなあ。そんなことよくないよ」
「会って早々駄目だしするな」
「……天然タラシめ。ったく」
「で、今日はどうしたんだ。新しい恋でもした報告か?」
「……それどころじゃないんだ。いずれは博士号を取るために必死なんだから」
からかうと大人の微笑みを返される。
ほんの少し会わない間に変わった。それはどちらもだろう。
「まだ三ヶ月なのか……それとも」
「まだだよ 」
同時にカップを傾ける。
「恋愛どころじゃない……っていうのは強がり。
プライベートでパートナーと過ごすことも生活を豊かにするのは確かなんだよ」
「他の男と恋愛できるか試してみるとか」
「そういうバーに行って、ワンナイトの相手でも見つけてみればいいのかな。
ガラじゃないんだけど」
「俺は無理だが」
「ははっ。ナンパもできないだろうしね! あれだけ寄ってこられても相手してないし」
「そういうのではなく、一途な本気の愛で落ちたい」
ポソっと呟いたら蒼宙は笑いもせず首肯した。
「あおらしいや」
変わったといえば、せいと真の名を呼ぶことをやめた事だった。
自分と似たような名前の愛称で呼ぶのは、何かのストッパーをかけるようだ。
「そういえば父が会いたいって言ってるんだが、無理なら断っていいからな」
「藤城隆先生……そうだね。ご挨拶しときたい」
「今からでもいいか。休憩時間に家に帰るらしい」
おじ様なんて呼ばずフルネームに敬称。
いずれは、青のことは藤城先生と呼ばれ蒼宙を教授と呼ぶ日が来るのだろう。
「大丈夫。君の車に乗せてって」
藤城邸に向かう車内で、蒼宙は後部座席に座った。
恋人同士の距離にいないのだから当然だと受け止めた……振りをした。
内心は胸が痛んだ。横浜や普段のデートも彼は助手席にいたから。
「あー、煙草変えた?」
「よく分かるな」
「それに香水使い始めたでしょ。チョロかったら騙されそうなスパイシーな香りがする」
「……その距離に人を近づけない。後にも先にもお前だけ」
「わかんないよ。青こそ今度はワンナイトから始めちゃうかも」
藤城邸に着く直前、妙な会話に発展してしまった。
規則的な動きで車をとめる。大通りを離れたら、車通りは少なくなる。
「……お前以外の奴とそれは想像できない」
「同性じゃなかったら……?」
答えを持っていなかったから、口をとざす。アクセルを踏み込んだら、
見慣れた外壁が見えてきた。2年ぶりの里帰りだった。
ともだちにシェアしよう!

