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ハロウィンパーティー(番外編)
ハロウィンパーティーは、親戚筋以外からのゲストとして篠塚蒼宙が、招かれた。
藤城家に連なる人々は、藤城家の本家筋から藤城隆、長男の藤城青、長女の葛井翠、
神崎家からは長女の神崎愛璃というメンバー。
夜遅くなるということで未成年の葛井砌は不参加、
長女の夫である葛井陽も仕事の都合で欠席だった。
たった5人。完全に内輪向けのパーティー。
お堅い雰囲気もないが、何故ここに自分がいるのだろう。
蒼宙は、主催者(ホスト)である藤城隆(青の父)に問いかけていた。
「……おじ様、部外者の僕がいてご迷惑じゃないんですか」
「部外者どころか関係者だよ。友達もろくにいない青と何年も深くかかわった重要人物」
(うわ。友達がろくにいないとか言っちゃった。
きっびしー。青、ここにいなくてよかったな)
「……確かにそれはそうですけど」
蒼宙が面式のないのは、ただ一人だけ。
翠と仲良く話す美少女だけだった。
ものすごく緊張してしまい帰りたくなってきた。
「皆で気軽に話せばいいよ。歳も近いしなかよくなれるんじゃないかな」
オレンジジュースを片手にテーブル席に座る。
家政婦の女性が気をつかってくれているのが申し訳ない。
「蒼宙くん、お久しぶりね! また会えて嬉しい」
青の姉が現れて握手を求める。
「はい。お久しぶりです。こういう場は緊張しますね。知らない方もいらっしゃるし」
「リラックスして楽しめばいいわ。その仮面で顔も隠せるから」
差し出された仮面(マスク)を顔につける。
ハロウィンということでここにいるメンバーが仮装をしていた。
「……ありがとうございます」
「ずっと心配してたの。私、あなたの事も弟みたいに思ってたから」
葛井翠の言葉に、胸が痛くなる。
何だか鼻もつんとした。涙をごまかすようにグラスのオレンジジュースを飲み干す。
「……すみません」
「そんなのいいっこなし。というか、泣き顔まで魅力的ってそうそういないわよ」
「は……」
差し出されたハンカチで涙を拭く。
涙声でお礼を伝えた。
「あの子はね、お父様の妹の長女。神崎財閥のご令嬢……神崎愛璃ちゃん。
青と私にとって父方の従姉妹ね。
青とはパーティーで会う程度、私は個人的にもお互いのおうちを行き来するくらい仲良いわ」
「なんとなく翠さんにも雰囲気似てますね。彫りが深い感じの美人」
「褒めても何も出るわよ」
でないのではなくでるのか!
「パーティーにこじつけて蒼宙くんに会いたかっただけなのよね。中々会う機会ないから」
翠は蒼宙の肩をたたき、自分の席に戻っていった。
どうしていいかわからずおろおろしていると、
元恋人が風のように現れた。
いつ見ても端麗で、清廉としたたたずまい。
中学から高校時代に纏っていた漆黒を薄茶色に戻して、罪深い王子スタイルになった。
更には目の色もコンタクトで変えているが実際は深く澄んだ青色。
顔立ちもどことなく洋風で完全に真実の姿を人前に晒すと、日本人には見えない。
母親がイギリスのクォーターだという話なのでその影響らしかった。
不思議とその遺伝の影響を受けたのは青のみで翠は、目の色も最初から茶色。
青は顔立ちも含め、母親に似ている。
(何気ない眼差しでこっちを見ないでよ。
やり場がないよ)
「……蒼宙」
低く艶めいた声は磨かれて、とんでもない色香を漂わせている。
「……そんなに睨むなよ。居心地悪い所に来させて悪かった」
「いや、少人数だし知らない人は一人だけだったし、大丈夫だよ」
(端正すぎる面差しは、ムカつくレベルだった。
タチが悪いことに、これでナルシストとかでもなく無自覚だから困ったものだ。
中学二年の終わりから8年も、彼の隣にいた。
全部はつかめなかったが、言葉の強さの割に不器用でヘタレ。
肝心な時に押しが足りない弱気な男)
オレサマ振りに翻弄されてはきたものの蒼宙は全部気づいていた。
未練たらたらなのはどちらかと言うとあっちの方だというのも不思議な話だ。
青ほど曇りのない男に愛されたのは、最高に運がよく幸運だったのだ。
(多分ね)
「……今日もかわいいぞ」
「僕じゃなくて、あの子の方でしょ」
「……従姉妹に、かわいいと言っても仕方がない」
その言葉には裏がなさそうだった。
「ガキの頃、俺のバースディーパーティーに愛璃も来ていたんだけど、
その時裏で親同士が将来的にくっつけようかみたいなことを言ってたらしい」
「……いかにも上流階級」
「俺が7歳、愛璃が3歳の時の戯言だ。
今も昔もちょっと遠い妹のような存在だから気にもしてなかった」
「そっか。青にとっては妹のような存在なんだね」
ふぅ、と息をつく。
「安心した?」
「どういう意味?」
青が恋愛対象として、見ていないことをか。
(青を取られる心配がない……)
「気分転換になればと思って招待したんだと思う。
歳が近いメンバー三人で楽しく過ごせってことだろ」
青の父もそう言っていた。
「そうだね。僕も気後れしてないで一緒に話そうかな」
「気が乗るならそうしろ」
青は隣に座ってくれた。
この場に居づらかったから心強かったけど、
苦しくて切ない。
きらきら綺麗な世界を見せてくれたことに、感謝しかないけれど戸惑いは消せないでいる。
「来てくれてありがとう」
「……来なきゃいけないようにしたのは僕だから」
魔法使いの衣装は、中学時代の青が使ったもの。
それを着ているのもおかしいけれど。
(どっちにしても大きいから藤城家家政婦の操子さんに手直しはしてもらった。
足の長さが違うから)
「つまんないなら抜け出すか」
「しないって。今日は23歳の誕生日祝いも兼ねてるでしょ。
僕もプレゼント持ってきたんだから」
悪巧みする青は、昔から知ってる彼のまま。
「……蒼宙が来てくれただけで十分だ」
ぐすん。涙が出てしまう。
「言ってなかったね。誕生日おめでとう」
「……ありがとう。で、プレゼントはいつくれるんだ?」
こんなやり取りしてるとまだ続いていると勘違いしてしまいそうになる。
恋人としての甘い蜜月は終わりを告げたはずで、ここにいるのは穢れたもの同士。
「……後で」
椅子の上に置いた手を擦られる。
(……ドキドキしちゃう自分が嫌だ。青が悪いんだけど)
青の従姉妹の女の子と三人で少し話してみたら意外に話は弾んだ。
異性を意識しないで話せると言われ喜ぶべきだと思った。
結局、その夜は彼とホテルで朝まで過ごした。
そのうち切れる関係ならもう少しだけと青に劣らず、ずるい蒼宙は思うのだった。
この後、事態は急展開するのだがそれは別の物語だ。
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