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外伝「Bye for now(※※※)」
静まり返った祭りのあとで、衣装を着替えると我に返る気がした。
「異性を感じなくて話しやすいって、褒め言葉でいいんだよね」
「異性に対して優しいし、警戒させない雰囲気はあると思うぞ」
「異性に欲を抱く自分が想像できないのは確か。かわいいとは思ったけどね……」
昔の俺とは違い今も中性的な雰囲気を醸し出している蒼宙。
「思ったんだ?」
「青(せい)がかわいくても、異性のかわいさとは違うじゃん」
「……俺はお前だけがかわいいけどな」
「もう出よう。おじ様にもご挨拶したし」
服の裾を掴み上目遣いで見てくる。
視線はあどけなく誰よりも愛しかった。
紛い物ではなく、本気の愛を捧げてきた相手。
8年8ヶ月は、永遠を約束してもいい時間だった。
今日企画されたハロウィンパーティーは、
蒼宙のためのものだったといつしか証明される日が来るのか。先を考えると苦しくなるから、
もうどうでもいいとさえ思える。
俺より少し小さい手を握り、屋敷を出た。夜の空気も冷たくなってきて季節が変わるのを感じる。
「……どこ行く?」
「愛を確かめ合うホテル」
帰ってきた言葉に虚を突かれる思いがした。
胸に込み上げてくる愛しさはごまかせない。
車に乗る前に強く腕を引いた。胸の中に閉じ込めたら頬を擦り寄せてくる。
車の鍵を開ける。
蒼宙が助手席に座るのを見届けて運転席に座った。
「……行こう」
蒼宙が望む場所へと車を走らせた。
それ目的であっても、それだけをするわけじゃない。高速に乗り30分。
たどり着いた場所で、彼はいたずらに笑った。
「こういう所もたまにはいいよね。
女子会にも使われるっていうし」
「設備も整ってるから楽しめるな」
笑いあって中へ進む。
「僕、この部屋がいいな」
ディスプレイからスタイリッシュな部屋を選ぶと迷わず宿泊のボタンを押す。
「割り勘にしよ」
「俺に出させてほしい」
胸を打たれたが、ここはこちらが持つべきだと思った。
「青、ありがとう。大好き」
抱きついてくる姿は、中学の頃のようで
確実に時間は流れている。
虚勢を張って必死だった時とは違い、
可愛らしさの中にあざとさと色気を身につけた。
それが、とてつもなく狂わせる。
「蒼宙……愛してる」
彼は瞳を揺らし口元を押さえた。
「僕は青のものだからね!」
微笑んで、強く手を掴む。
選んだ部屋についたらベッドに座った。
黒と白を貴重にした部屋はスタイリッシュで、
洒落ている。灰皿もあったが、なくてもかまわない。蒼宙の唇に苦味を残したくなかった。
「楽しかったよ……本当に。みんないい人たちだから居心地も悪くなかった」
「蒼宙のことは父も大切に思っているから」
「ん。藤城家の人達は信じられる」
こつん、ともたれかかってきた蒼宙の頭を抱いていたら、彼は急に動き出した。
「ゲームでもしようか。
ゲーセンとかも中々行かないし格闘ゲームやってみたかったんだよね」
「……俺に勝てるわけないだろ?」
大きな画面で、格闘ゲームを始めた。
俺は金髪のガチムチを選び、蒼宙はサイコそうなキャラを選んだ。長い爪を繰り出し闘うなんて、中々、やばそうだ。目もイッてる気がする。
「……意外な選択だな」
「本当はもう一人と迷ったんだけど」
そうつぶやく蒼宙は、サイコパス野郎を見事に操り金髪ガチムチに勝った。
「……格闘ゲーム、俺には向いてないんだ。レースゲームの方がいい」
「こっちのサイコがチートだったんだよ」
蒼宙は勝ち誇ることなかったが、とても嬉しそうな顔をしていた。
「……蒼宙に腹黒サイエンティストは似合わない」
「まぁ、意外性だよ」
クスッと笑う。
「レースゲームもあるからしようか」
「うんうん。ゲームの中ではスピード出しまくっても、切符切られないしね」
「そんなに出してない。高速も法定速度守ってる」
「マジレスだ」
カーレレースのゲームは、サーキット場でレーサーが乗るようなスポーツカーばかり選ぶことができた。
画面で車種を選んでいるとわくわくしてくる。
「格闘ゲームの時より明らかに楽しそう。わかりやすっ」
「……こんなのゲームで現実とは違う」
蒼宙が、コントローラーを握る姿に気を取られ、見事に負けた。自動車教習所のシミュレーションゲームは、人間が登場し中々鬼畜仕様だったのを思い出す。あれとは違い車しか出てこないがなかなかオーバーだった。
(スピード出していると言ってもそんな簡単に大破するか。自動車教習所のシミュレーションゲームは安全を学ぶ真面目なものでお遊びのゲームと一緒にしてはいけないが)
蒼宙は、コントローラーを握りながら体も動かしていた。右や左にカーブを切る時は彼の体も傾く。そんな様子を見ていたら、負けるのも仕方がなかった。
(クソかわいい)
「青、真剣にやってないでしょ。僕一人でヒートアップして馬鹿みたい」
拗ねた唇は愛らしい以外の感想が浮かばない。
「お前が、運転しながら身体も動かすのがかわいくて」
「……そんなの見なくていいから!」
蒼宙は顔を真っ赤にした。
「楽しかった」
「まぁ、ね。現実では、脇見運転もせず安全には気をつけてるからいいんじゃない」
「それは、当たり前だろ」
「ロールプレイングゲームはセーブポイントからやり直せても現実は、行き詰まった場所から引き返せないよね」
「RPG? さすがにここにはないが」
「うん。HP(体力)もMP(精神力)も、
アイテムも魔法もないから自力で回復しなきゃね」
「……裸で満たし合えば回復するだろ。生身の人間には、身体がある」
RPGの話をし始めたのでノることにした。
「……そうなるよね」
小柄な体を寄せてくる。
顔を上にあげて、唇を重ねてきた。
滅多にない蒼宙からのキス。
始まりのバレンタインで、
襲いかかってきた以外はほぼ受け身だった。
「HPは減ってもMPは減らないよ」
「どっちも減らない」
ベッドのサイドボードにカラコンを置く。
真実の瞳で、抱きたいと思った。
戯れて、どちらからともなくバスルームへと誘った。シャワーを浴びながら繋がって、
イーンターバルを置いたあとベットに戻る。
いつになく積極的な蒼宙に
ふとした欲が湧いてきた。
「お前が一人でしてるの見せてくれないか」
「……な、何言ってるの。そんなの無理だよ!」
「どうして? 電話越しにはしてただろ。お互いに」
顎をつまみ真正面から見ると、彼は羞恥に頬を染めていた。
「……青も見せてよ。それならフェアでしょ」
上擦った声は、懸命に口にしたのがわかる。
「……キモいかもしれない」
「それはこっちのセリフだよ。青は色っぽいだけ」
熱望されたらやるしかないと覚悟を決めた。
こんな姿は愛する存在にしか見せられない。
(許しあった相手しかここにはいない)
着ていたバスローブをはだける。
そっと手を伸ばし掴んだら、びくと震えた。
「……そんなに見るなよ」
「勢い失ってない。凄まじい精力」
何故か感嘆されてしまう。
さっき、バスルームで抱き合ったばかりだからか、興奮は収まりきらないままだった。
昂らせなくても既に蒼宙のナカに入る準備ができている。
「……くっ」
頤を逸らせる。
なぜ、すぐそばにいるのに触れずこんなことをしているのかよく分からなくなった。
蒼宙は、冷静にこちらを見ているばかりではなく、自身に触れていた。
甘く紡がれる息が宙に溶ける。
とろんとした目には艶が含まれていた。
「……妖艶すぎる青に耐えられなかった」
普段の高い声がかすれている。
聞いていると、もう駄目だった。
「無理なことを言ってごめんね。お詫びに今度は僕が付けてあげるから」
蒼宙は、部屋に置いてあったゴムを取り出し俺に纏わせていく。俺がつけるのを見ているからか、
スムーズだった。指先が震えてはいたけれど。
「……ありがとう」
上唇を食まれる。
首筋をなぞる舌。
鎖骨を強く吸われたところで、押し倒していた。
「ずっとされるがままにはならない」
自分よりは小さい体に腰をちかづけて、膝を割る。
「ん……っく……」
顔をそらすから無理やりにこちらを向かせる。
左手を握った。
突き上げるスピードをじんわりと上げたら、
呆気なく彼は達した。
二度目は早く、終わりが来る。
三度目は蒼宙が俺の身体に跨っていた。
下からそれを眺めながら腰を揺らす。
醜いと、いつか気にしていた。
どこがだ。
繋がった瞬間が美しいというのは、
きっと、この先も思うことだろう。
倒れ込んできた身体を抱きとめる。
髪を撫でたら、眩しく微笑んだ。
「青い瞳の方が絶対エロい。 暗闇でも光ってるもん」
「……光ってるはずがない」
じゃれついてくるから頬を撫でて、夜明けのキスをした。カラコンをつけて薄茶の瞳を偽装する。
「面倒ならカラコンやめればいいのに」
「……外だと目立つ」
蒼宙は、軽く笑い声を上げた。
蒼宙の暮らすマンションの部屋まで送ったら
別れ際に彼は耳元で囁いた。
背伸びさせるばかりもどうかと思ったので腰を屈めた。
「じゃあまたね……青」
頬を掠めた唇がいじらしかった。
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