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第56話 漆黒の闇の中踊る二人(2/※※※)

「っ……、はぁ……」 腰を上げさせて、背後から侵入した。 正常位よりさらにきつい。 臀部を押さえて腰をつきだす。 肌がぶつかり合う水音が、 激しくなってくる。 四つん這いの姿勢に起き上がらせ、彼の唇に指を入れる。 「んん……っ」 夢中で啄む。 「エロいな……」 「誰がそうさせたの?」 指を離し、より身体を密着させた。 奥を穿つ。 付けずにしたら、こんなにも お互いを感じて怖いくらいだった。 (マジ……やばい) 一気にせり上がってくる感覚に逆らえない。 奥から、抜く。少し蒼宙の臀部にかかった。 「ん、ああっ……熱いっ」 上半身を傾がせて蒼宙は達した。 しばらく息を整える。 横向きに転がって抱きしめる。 蒼宙の意識が戻ってこないうちにゴムをつけた。 腰をくっつけて、欲望を中に叩き込む。 「はっ……ん!」 「振ってもらえるんだから、頑張らないとな」 彼の表情が見えないのは悲しい。 細い身に打ちつけ中で暴れ、出すのはとてつもない快感だけれど。 繋がったまま身体を反転させる。 「ひゃっ……い、今」 「なんだ?」 「ああ……ッ」 意識が飛ぶまで穿ち続けた。 快感に気が触れてしまうかと思った。 蒼宙にはずっと触れていたいとすら感じた。 気がついたら、白々しく朝の光が部屋に差し込んでいた。 冬なので夜明けが遅いのは、ありがたかった。 緩慢な仕草で服を着て二人は向かい合う。 「……いっぱい受け取ったよ」 「ないと早いから、つけたけどな」 チュッ。 軽いリップノイズがする。 頬や額、顎に口付けられ 唇にも大胆なキス。 間近で見る蒼宙の瞳は、少し潤んでいて 愛くるしかった。 蒼宙が、髪を撫で背中を抱くのをされるがままにした。 「あお……ううん、青、大好き! なんでこんなに好きになっちゃったのかな」 「……ありがとう」 「憎めたらいいんだけど無理だから、 僕を憎んでよ」 頬擦りされ、またキスの雨。 「なんて優しいキスをするんだ。馬鹿」 「これからは、本当に親友だよ。その誓いのキス」 舞い降りる小鳥のキスを返す。 「青は大丈夫。もちろん僕もね。 だから、恋人としての二人にはお別れしよ」 大きな瞳に涙をためて、蒼宙は言う。 ちっとも目をそらさないから逸らしたくなる。 顔を見れなくて抱きしめた。 抱きすくめて肩に頬を埋める。 「……ずっと一緒だったね。 僕は君を好きになって恋人になれて 結ばれて喜びしかなかった」 「こっちのセリフだ。夢中になれたのはお前だったからだ」 ぽんぽん、と背中を叩いて蒼宙が身体を離す。 「帰ろ! 親友として責任持って送って。 まさか、1人で帰れとかここに置き去りとかないよね?」 気持ちを切り替えたのか清々しいほどの笑顔だった。 「……そんなことしないよ。もう抱き合えない関係でも、清らかな二人に戻るだけだ」 「ピュアだなぁ」 ベッドから降りた蒼宙の背中に迷いはないように見えた。 青は衣服を整え、その小さな背中の後ろを歩く。 蒼宙のマンションまで送り届けた時、 彼は引導を渡してくれた。 「君はどうしてそんなにかっこいいのに自信がないの。 そんなとこもよかったんだけど」 くすくす笑って、背中を向け一度振り返る。 「お前も幸せになれ。親友はいつでもそばにいる」 「うん。お互いいい恋をして大人になったから、平気だよ」 「蒼宙……」 「振られといて縋りつくのは、なしだよ」 「……つかねぇよ。というかそれで振ったつもりか」 「大嫌い! もう顔も見たくない! これでいいの?」 「……あ、あ」 「こんな苦しい言葉……もう、駄目。 またね。大親友のあお」 ゆっくりと遠ざかっていく。 朝までこの腕で抱いていた恋人。 「お医者様になって独り立ちした頃、最高で最後の運命が待ってるかもよ」 振る方を彼に委ねたのにまだ愛をくれる。 全部ささやきは聞こえていた。届けないつもりが、全部。 (俺は何かをお前に与えられたのだろうか) 「研修医でもなくなった頃か……まだ先だな」 励ましがとても嬉しくて、この恋が運命ではなかったことが悲しい。 青が生まれを呪ったことは一度や二度じゃなかった。 自嘲の笑みのみで涙は出なかった。   三日後、雨が降りしきる中で青は実家に戻った。 出迎えた家政婦に愛想笑いをし部屋にこもる。 数時間後、夕食の席に呼ばれ階下に向かうと、 父が心配そうな顔をしていた。 「青、おかえり。実家に泊まるの本当に久しぶりだよね」 「……そうですね」 疲れきった様子で椅子に座る青に父が気づかないはずはなかった。 「指摘される前に伝えときます。完全にケリをつけました」 「……そっか」 「学業には影響ありませんし、その辺はご心配おかけしません」 「うん。青はそういう子だよね」 「生きるとはなんなのか……自分が生まれてきた意味について深く考察したいと思います」 遠い目をして、ふっ、と息をつく。 お茶を飲もうとして伸ばした手は空を切り、コップを肘で倒した。 「……青!?」 青の様子が明らかにおかしいことに気づいた父は肩を揺さぶった。 「何すんだよ……」 「相当ダメージ受けてるね……。 あまり干渉すべきではないんだけど……どうしたものか」 「適当に気にいった相手をナンパしてみようかな。どうせならカラコンつけずに」 「……え、青にできるの? 確実に成功するとは思うけど、その前にできないよね」 「……やってみないとわかんないだろ」 「青い目なら、外国人にウケたりして」 「……ふむ。やっぱり俺は相手が日本人じゃない方がいいのか。 今の所、英語はマスターしてるけど」 「……本気かな」 こっくり頷く。 「あのね。そういうの親に言うからかわいいって言われちゃうんだよ」 ずしーんとなる。 「……あれ、ないですか。シングルモルトウィスキーの12年もの……」 「……棚にあるから飲んでいいよ」 ヤケになった青は、虚ろな目で立ち上がる。 棚から取ってきたウィスキーをグラスに注ぎ、水と多めの氷で割った。 くいっと傾ける。 顎についた滴は、手で乱暴に拭った。 あると分かっていて聞いたのだった。 「いつの間にか慣れちゃって」 「やってられねぇからな」 やさぐれると完全に、口調が荒くなる。 「帰ってきてくれてよかったよ。顔を見ると安心だからね」 「この状態を見て安心できるのかよ……」 二杯目のウィスキーをグラスに注いだ。 「……無理に言わなくていいけど言いたいなら話せばいいよ」 なるべく刺激しないようにしているのか、かなり穏やかな口調だった。 「済んだことはしょうがないです。 別れたつもりがダラダラと関係を続けて、見切りをつけなければ お互い駄目になるって分かったから」 まるで酔っている口調ではなかったが、 目はとろんとしていた。 「……つらかったね。よく頑張ったよ」 「どうでしょうかね」 ふぅ、と息をつく。 「言いたくもない嫌なことをあっちに言わせて、傷を与えました。 傷つける方が受ける傷は深いんだって、後から気づいて自己嫌悪です」 「……蒼宙くんは青にはもったいない相手だったね。できた子だ」 「重々承知です。情けないのは俺ですからねぇ」 「でも傷つけたってわかったのなら、マシだよ。 気づかない場合もあるから成長したってことだよ」 「これから人を愛せるのかは不明です。心と体がバラバラに砕けてしまったんだ」 「……心療内科、予約する?」 (マジに取るなよ……) 「俺より必要としてる人がいるだろ」 父は苦笑した。 「とりあえず何も食べずに飲むのはよくない。何か口に入れた方がいいよ」 父はテーブルの上の料理を指し示した。 「……分かりました」 青はこくりと頷き手を合わせる。父も手を合わせていた。 「世話をかけます。甘えてすみません」 酔っ払っているわけではなかった。 久しぶりの実家で親にアルコールを要求してみっともない姿を晒してしまった。 「青が来てから10分か。まだ冷めてないでしょ」 「……」 10分の間に二杯も飲んでしまったのは、 成人してから初めてだった。

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